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第1話
ソファに寝そべった純は、SNSで友人の投稿を見ながら正和の帰りを待っていた。そこで一つのリポストされて流れてきた投稿が目に留まる。
「うぉーあいにー?」
明日は五月二十日。中国では我爱你 ──愛してる──の日で愛を告白する日らしい。中国語で五二〇 が我爱你 と音が似ているからだそうだ。
日本にもそういう語呂合わせでできた日があるから、似たような文化があって面白いなと思う。
それと同時に、普段自分から気持ちをあまり伝えていないことにも気づく。
正和はいつも「愛してる」「大好きだよ」と伝えてくれるのに、恥ずかしくて純から言ったことはあまりない。それどころか、彼が言ってくれたときでさえ、「俺も」と返す時もあれば何も言わない時もある。
よく考えてみたら、凄くまずいような気がした。もし、彼からその言葉がなくなったら、悲しいとか寂しいなどの言葉で表せないくらい落ち込む。それを言われない彼は内心どう思っているのだろう。
『純~愛してるって言って♡』
『そんなに俺のこと大好きなの? 可愛いね』
ふと脳裏に過った彼の言葉にどきりとする。冗談めかしてはいたが、実際のところは純からの言葉を切実に求めていたのではないか。
そうでなかったとしても、このイベントに乗じて彼に伝えるのも良いかもしれない。明日は二人揃って予定もない。純は密かに決心して、どう切り出そうか頭の中で思い描いた。
* * *
「純、どこに行ってたの?」
「……ちょっと買い物」
リビングに入ってきた彼に驚きつつ、買ってきたノートなどを袋から出してテーブルに置く。
「言ってくれれば一緒に行ったのに」
「いいよ。すぐだし、荷物もそんな無いし」
「そうじゃなくて。せっかくの休みなのに置いてくなんてひどいと思わない?」
「それは……ごめん?」
純の軽薄な謝罪に、彼の目がスーッと細められる。それを横目で見た純は、しまった、と買い物袋を投げ出して彼の元に駆け寄った。今の彼の表情は純への意地悪を企んでいる時の危険な顔だ。
彼の両手をそれぞれそっと掴んで、少し甘えた声で言う。
「正和さん、ごめんなさい。次はちゃんと言うから……許して?」
「んー、どうしようかな~」
「~~っ」
彼の表情が変わらないのを見て、純は背伸びをして頬に触れるだけのキスをする。
「……約束、するから…」
耳まで赤くなった純を見て、彼の纏う空気が柔らかくなる。
「ふふ、約束だよ」
満足げに笑みを浮かべた彼は、指切りのように純の額に口づけを返した。
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