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第2話

 ──気持ちを伝えるなら今かもしれない。  今日を逃したらまた言えなくなるし、今以上に絶妙な瞬間が来るとは思えない。  純は顔を上げて彼をまっすぐに見据える。 「正和さん」 「なに?」  彼の手を掴む自分の指にぎゅっと力が入った。意気込んだのに、いざ彼の顔を見たら、言葉が喉につっかえて出てこなくなってしまう。  愛してる、その一言がなぜこんなにも言えないのだろう。  まるで、「好き」に比例して、伝える言葉まで重たくなってしまったかのようだ。 「っ……えっと、だから、その…」 「んー?」 「っ……(うぉ)爱你(あいにー)」  口から飛び出したのは照れ隠しで、言い慣れない中国語だった。 (わあ、ばかばかばかばか。何言ってるんだよ。せっかくタイミングも良かったし、イメトレもばっちりしたのに!)  昨日調べた言葉をそのまま口に出してしまい、心中大暴れする。仕切り直しだ。深呼吸をして気持ちを整える。今度こそ正和への想いをちゃんと伝えよう。  ──そう思ったのに。  彼は予想外に目を輝かせて、嬉しそうな顔をする。純が続けようとしていた「我爱你の日だから」という誤魔化しは喉の奥で霧散した。 「你怎么突然说这种话……不过我也爱你啊。 这可是你先开的口,以后可不能反悔。不然我可要罚你了(どうしたの、急に……でも、俺も愛してるよ。純が先に言ったんだからね? これからずっと責任とってもらうから、ふふ。逃げたらお仕置きだよ)。純~♡」 「えっ、わっ、な、なに!?」  彼の言葉を認識できないうちに背中に手を回されて、思わず彼の胸を押す。けれども、そのまま抱きしめられて頬に唇を落とされた。後ろに回された手を強く締められて、純は息苦しさに再度胸を叩く。少しして、彼はほんの僅かに体を離すと首を傾げる。 「純から言ってくれるなんて珍しいね」 「ねえ、今なんて言ったの?」 「えー、ちゃんと聞いてなかったの?」  彼は拗ねたように唇を尖らせる。 「いや、中国語わかんないし!」 「純が先に言ったのに」 「いやだって普通……正和さんって中国語もできたんだね?」 「できるって程じゃないよ」 「……ねえ、もう一回。今度は日本語で言って!」 「仕方ないなあ」  彼はそう言って、耳元に唇を寄せる。 「──どうしたの、突然。……俺も愛してるよ。そう言ったからには、もう後戻りはなしだよ? 俺から逃げたら……分かってるよね?」  耳が熱い。彼の声で震えた鼓膜からぞくぞくと痺れが広がる。腰骨の奥がぞくん、と熱くなるのを感じて顔を上げれば、涙袋をクッとあげて、いじわるな笑みを浮かべる彼がいた。  

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