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第3話

「純も日本語で言ってよ」 「……意味分かってるなら良いじゃん」  彼の表情は純を恥ずかしがらせて楽しんでいるようにしか見えなかった。やはり純の言葉は、あってもなくてもどちらでも良いのかもしれない。  きっと言わなくても十分伝わっているのだろう。  そう思ったが、またしても彼に愛の言葉を言われてしまって、純も少しばかり対抗心が出てきて覚悟をきめる。 「ちょっと離して」 「んーやだ」 「正和さん!」 「なんか今日の純変だね?」 「っ……いいから離して」 「ひどいなあ」  そう言いながらも腰に回した腕を解いてくれる。  純は後ろを向くと微かに震える手を握って、煩く脈打つ心臓を抑えるように胸に拳を当てる。そんな様子を見た正和は表情を変えた。 「──どうしたの? なにかあった?」 「別に」  素っ気なく返して、ダイニングテーブルまで歩くと、先ほど咄嗟に椅子の上に隠した贈り物を後ろ手に持って彼の元に戻る。  正和はそれを覗き込もうとするが、すぐに純の顔に視線を移す。純の態度がいつもと違うことに困惑した様子で、彼は純が話し出すのを静かに待った。 「正和さん」 「なに?」 「いつもちゃんと言えないけど……お、俺も正和さんのこと…大好き、だよ」  少し気障(キザ)だとは思いつつ、純は手紙に一輪の薔薇を添えて差し出す。 「とても大切なんだ。もし、俺が何か言ったり何かして嫌になっても全部直すから……離れないで、ずっとそばにいて。……愛してる、よ」  羞恥で目線は自分の持つ真紅の花びらに向けられているし、声が少しだけ小さくなってしまったが、なんとか伝えることができた。手紙にも彼への素直な気持ちは書いてあるが、やはり自分の口で伝えるのとは違うと思う。  けれど、いつもだったら茶化したりおどけた様子で返してくるのに、何の反応もなくて不安になる。  おずおずと顔を上げれば、彼は驚いた顔で固まっていた。その頬がじわじわと赤く染まり、珍しく狼狽えた表情を見せる。 「じゅ、純? ほんとにどうしちゃったの?」 「どうしたって何。人がせっかく──」 「あー、待って。どうしよう。嬉しい」  彼は顔を隠すように口元を右手で覆って、目を伏せる。こんなにも動揺している正和を見るのは初めてかもしれない。  そんな彼が可愛くて、いつも意地悪してくる彼の気持ちが少しだけわかる。 「これはいらない? いらないなら──」 「いるよ。いるに決まってる」  純の言葉に被せるように言った正和は慌てて手を伸ばし、手紙を持つ純の手を上から掴んだ。  触れた彼の手はいつもより熱くて、伝播したように純の指先も熱くなる。溶け合った体温が、指先からじわじわ浸食して、全身を熱く染め上げる。  胸が高鳴って、息が詰まる。  

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