1 / 66
第1話 出会い
今でも忘れられない彼。ずっと恋が出来ないのは彼のせい。どうしたらいい?
この気持ち、どうしたらいい?
眩しいスポットライトがステージを照らす。高低差のない床がステージだ。真ん中が広くなっている。足を踏み鳴らす音が響く。
初めて見るフラメンコ。
男たちが車座になって踊り子を囲んで歌っている。「カンテ」という歌を朗々と歌う男たち。ドレスの女たちも床に座って掛け声をかける。
六本木のスパニッシュバル、タブラオと呼ばれる、フラメンコのショーと食事が出来る店だった。父が解説してくれる。
離婚して母に引き取られた俺に、たまに会う父が連れて来てくれた店。俺は中学生だった。
切なくなるようなフラメンコギターの音色。
「トケ」というらしい。叩くように演奏したり、哀愁のある爪弾きが心に響く。
ここは日本なのか? と疑うほど異国情緒あふれる雰囲気だった。
そして「バイレ」と呼ばれるフラメンコのダンス。グラマラスな女性の情熱的な踊り。かかとを踏み鳴らすリズムに引き込まれる。
男女で踊るフラメンコ、「タンゴ」というのが始まった。アルゼンチンタンゴとは別物だそうだ。
スペイン系なのか、彫りの深いイケメンとセクシーなドレスの美人が絡む。
初めて見た男女で踊るフラメンコは、セクシーで情熱的で目が離せなかった。
次に登場したのは東洋人の男。ソロで踊る。
背が高い。スレンダーでその中に秘めたバネを感じさせる。またもや、目が離せない。
手拍子は素人はやってはいけないらしい。その分、掛け声が飛ぶ。おなじみの「オレ!」とか、だ。
女性のダンサーのカスタネットの音をかき消さないように。
「このダンサーを見せたかったんだ。
男のフラメンコダンサー。」
父が言った。
背が高くて端正な顔をしている。俺の目に焼きついたその男。
父との思い出はその時が最後だ。
姉は連れて来なかった。父は女性を憎んでいるようだ。両親は俺が中学生の頃にはもう離婚していた。母には次の男がいた。それまでは父は俺にだけ、こうして連絡をくれていた。
ともだちにシェアしよう!