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第1話 出会い

 今でも忘れられない彼。ずっと恋が出来ないのは彼のせい。どうしたらいい? この気持ち、どうしたらいい?  眩しいスポットライトがステージを照らす。高低差のない床がステージだ。真ん中が広くなっている。足を踏み鳴らす音が響く。  初めて見るフラメンコ。 男たちが車座になって踊り子を囲んで歌っている。「カンテ」という歌を朗々と歌う男たち。ドレスの女たちも床に座って掛け声をかける。  六本木のスパニッシュバル、タブラオと呼ばれる、フラメンコのショーと食事が出来る店だった。父が解説してくれる。  離婚して母に引き取られた俺に、たまに会う父が連れて来てくれた店。俺は中学生だった。  切なくなるようなフラメンコギターの音色。 「トケ」というらしい。叩くように演奏したり、哀愁のある爪弾きが心に響く。  ここは日本なのか? と疑うほど異国情緒あふれる雰囲気だった。  そして「バイレ」と呼ばれるフラメンコのダンス。グラマラスな女性の情熱的な踊り。かかとを踏み鳴らすリズムに引き込まれる。  男女で踊るフラメンコ、「タンゴ」というのが始まった。アルゼンチンタンゴとは別物だそうだ。  スペイン系なのか、彫りの深いイケメンとセクシーなドレスの美人が絡む。  初めて見た男女で踊るフラメンコは、セクシーで情熱的で目が離せなかった。  次に登場したのは東洋人の男。ソロで踊る。 背が高い。スレンダーでその中に秘めたバネを感じさせる。またもや、目が離せない。  手拍子は素人はやってはいけないらしい。その分、掛け声が飛ぶ。おなじみの「オレ!」とか、だ。  女性のダンサーのカスタネットの音をかき消さないように。 「このダンサーを見せたかったんだ。 男のフラメンコダンサー。」 父が言った。  背が高くて端正な顔をしている。俺の目に焼きついたその男。  父との思い出はその時が最後だ。 姉は連れて来なかった。父は女性を憎んでいるようだ。両親は俺が中学生の頃にはもう離婚していた。母には次の男がいた。それまでは父は俺にだけ、こうして連絡をくれていた。
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