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第15話

「エルヴィン。俺のことを嫌いにならないでくれ」  ルークはエルヴィンを真っ正面から見つめてくる。金色の瞳が切なげに揺れている。こんなに強い人が苦しそうな顔をするなんて、にわかに信じ難かった。  婚約者のアイルはかなりの美丈夫だ。もしかしたら、ルークはいつもアイルに振られてしまうのではと潜在的に不安を抱えていたのかもしれない。  その感覚が残っていてエルヴィンにこんなにも執着を露わにしているのだろう。  ルークの気持ちを少しでも楽にしてあげたいと思った。ルークはエルヴィンのことを婚約者だと記憶違いしている。だから今ならエルヴィンの言葉をアイルからの言葉だと受け取ってくれるのではないだろうか。 「嫌いになんてなりません」  エルヴィンはルークに微笑みかける。 「こんなに素敵な殿下のことを嫌いになるはずがありません。お慕いしているに決まっているじゃありませんか」  エルヴィンが言い切ると、ルークの表情が和らいだ。思ったとおり、婚約者から言われた気持ちになっているようだ。  それにこの言葉は嘘ではない。エルヴィンの本音だ。 「殿下は僕の憧れです。こうして目と目を合わせて話ができるだけでも嬉しく思っています。殿下はいつか真実を取り戻す日が来るでしょう。その日までは殿下の話し相手になります。辛いこと、嬉しかったこと、なんでもお話しください」  ルークがいつか記憶を取り戻すときまで、話し相手くらいにはなれるんじゃないだろうか。そんなふうに思った。 「真実とはなんだ?」  ルークは首をかしげている。自分が記憶違いを起こしている自覚がないのだろう。 「そのときが来たらわかりますよ」  この偽りの関係はすぐに終わる。そのことだけはきちんと自覚しておかなければならない。  いつかはルークとの別れがくる。 「……エルヴィン? なぜそんな寂しそうな顔をする?」  ルークはエルヴィンの頬に手を伸ばしてきた。その温かくて優しい手に、余計に胸がちくりと痛む。  この優しさもすべて偽りだと思うと涙が溢れそうになるが、それを必死でこらえてエルヴィンは話題を変える。 「なんでもありませんよ。殿下、治療の途中です。背中の傷は一番ひどいですから、しっかり保護しましょう」  エルヴィンはルークの腹に回していた包帯をやり直しにかかる。巻き途中でルークに抱きしめられてしまい、ぐちゃぐちゃになったからだ。  今度こそルークはエルヴィンに変なちょっかいを出さずに大人しく治療を受け入れてくれた。  全身の包帯を巻き終えたあと、ルークの着替えも手伝い、用意した薬もルークはすべて飲み干した。  その後、夕食の栄養管理や、ルークの入浴の際に気をつけるべきことなどを従者たちに指示をした。ルークの命令のおかげで、皆素直にエルヴィンの指示に従ってくれる。それは本当に心強かった。

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