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第27話
いつかこうなることは最初からわかっていたのに、胸がズキズキと痛む。
なんてあさましいのだろう。ルークに本当に愛されるわけもないのに、嫌われた途端に、まるで恋人に捨てられたみたいに胸が苦しくなるなんて。
身分違いにもほどがある。調子に乗ってすっかり初心を忘れていた。話ができただけでも幸運だったと思うべきだ。
そう思うのに、ルークに会いたいと思ってしまうのはどうしてだろう。あの金色の瞳で見つめられたい、強い腕でこの身体を抱きしめてもらいたいと望むのはなぜだろう。
(諦めなきゃ……最初から殿下は僕のことなど好きではなかったんだ……)
ルークを諦めなきゃいけないとわかっている。それなのに、ルークと話がしたくて、ルークに愛されたくて仕方がない。
「はぁ……」
エルヴィンは大きく溜め息をついた。
すっかり贅沢を覚えてしまった自分に、ほとほと嫌気が差す。貧乏猫獣人のくせに、あんないい人に好かれたいだなんて、なんて強欲なのだろう。
中庭から廊下へと冷たい風が吹き込んできた。エルヴィンはダークブラウンのマントのフードを被り、寒さに肩をすくめる。
ルークが贈ってくれたこのマントはエルヴィンのお気に入りだ。ルークに会うことは叶わなくても、贈り物のマントはエルヴィンを優しく包み込んでくれる。
早く部屋に帰ろう。ひとりきりの寂しい小さな場所に。光の届かない人質部屋に。それが本来のエルヴィンの居場所なのだから。
「エルヴィンさま。こちらへ」
「うわっ!」
急に身体を引っ張られ、エルヴィンはバランスを崩してよろける。その拍子で被っていたフードがはらりと落ちた。
誰だろうとエルヴィンは見上げる。エルヴィンの手を引いたのはアイルだった。
「黙ってついてきてください」
アイルはエルヴィンに耳打ちして、エルヴィンにフードを被せ直して、足早に歩き出す。
アイルは妙に神経をピリリと尖らせている様子だ。いったい何があったのだろう。
アイルは密かに周囲を警戒しながらエルヴィンの横を歩く。その足は階段を下り、城の奥、|人気《ひとけ》のないほうへと進んでいく。
「ど、どこに行くのですか?」
不安になってきてアイルに訊ねても「静かに」としか返事がもらえない。どうしようかと迷っているうちに、アイルはまたひとつ、暗く細い通路に入っていく。
このままアイルを信じてついて行ってもいいのだろうか。
やがて歩みを止めたアイルは、目の前にある木製の扉を開けた。中は埃っぽくてあまり使われていない、棚にたくさんの木箱が積まれている、用具置き場のようだった。
中に入るように促されて、エルヴィンが部屋の中に入るとアイルはすぐに扉を閉め、内側から木の棒をつっかえ棒にして栓をした。
「な、なぜこんなところに?」
「そんなの決まってます。エルヴィンさまは、殿下の最大の弱点ですから」
アイルはニヤリと口角を上げ、エルヴィンに迫る。
「弱点……?」
エルヴィンは首をかしげる。
どういう意味なのだろう。アイルが何を言いたいのかエルヴィンにはわからない。
「エルヴィンさまは本当に可愛らしいですね」
「えっ?」
エルヴィンが驚き目をぱちぱちさせた瞬間、アイルがエルヴィンに両腕を伸ばしてきてエルヴィンの身体を抱きしめる。
「なっ、何を……!」
慌ててアイルの腕から逃れようとしても、壁とアイルに挟まれて逃げられない。
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