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* エピローグ *

それから。 僕が表紙のFAMEはバカ売れし、歴代3位、男の表紙じゃ1位の記録を作り、多方面から称賛と高い評価を得た。 と同時に、放送された僕のドラマも同じくらいヒットしてくれたらよかったけど、現実はそう甘くない。そこそこの評判止まりだったのはシナリオのせいとして、僕は変わらず、ドラマに映画にオファーは絶えない。 結果的に、FAMEで絶対的な成功をモノにしたテイラーはこれまで以上に引っ張りだこになり、個人依頼で受けてるポートレート撮影の予約は今や2年先まで埋まっている。 ポートレートなんて撮りたい時に撮ってこそだと思うけど、アイツに撮ってほしいと思わせる写真はこの僕という被写体をもってエグいほど宣伝されたわけで、まぁ、まんざらでもない。 そんなテイラーは、成功を褒めてやっても「当然です」くらいの塩でなかなかムカつく。そもそも、僕の会心の盗み撮りをして満足してるヤツだから、商業的成功をサイドエフェクトくらいにしか思ってない。とはいえ、「貴方だから実現できた、僕らの成功ですよね」とか言うから、僕も僕で「そらそーだよ!」ってまんまと手のひらで転がされている。 そして、FAME以降。僕は、写真撮影の仕事で指名できるならテイラーをリクエストするようになったのは、単に、彼が一番“慣れててやりやすいから”に過ぎない。というのも、テイラーとFAMEで成功したからって僕の撮影嫌いは少しも変わっておらず、やるならストレスがない彼がいいってだけだ。が、結果的に素敵な僕の写真が都度都度撮れてしまい、理想的ではある。 プライヴェートの話をすれば、FAMEが出た翌月には自分の部屋を引き払った僕は、バトラーズ・ワーフのペントハウスに移り住んだ。居心地がいいから当然だ。 そして、当初の予想通りFAMEの表紙は僕の名刺代わりになり、僕といえばテイラーとペアで認識されるようになった翌年の夏。 テイラーが出した僕の写真集は当然バカ高い評価を得て、彼は押しも押されもせぬ業界きってのトップフォトグラファーに名を連ねた。 この頃から、僕らはゴシップ誌のネタになり始めたが、別にプライヴェートの関係を隠す気もなく、僕とテイラーの仲は公然と知れている。 さらに、僕のセクシャリティに関しては、クレアがうまいことPR施策を兼ねた仕事を取り仕切ってくれたから、今や僕はバイセクシャルのアイコンとしても売れている。さすがやり手だ。 3年もして。 ロンドンの東の高級住宅街の一軒家に引っ越した僕らは、ふたりで悠々暮らしている。 僕は元々ケッコン願望はないし、テイラーも興味がないようで、特にそういう話にもなっていない。 いつだったか、とあるインタビューでテイラーとの仲をズバリ聞かれたけど、「パートナーだよ」って答えた。 その記事を見たテイラーが、急に真顔で「指輪を買いましょうか」なんて言うから、僕は呆れた。 「そういうのは確認するもんじゃないだろ」 「そうですね」 「指輪ほしいの?」 「それよりも、貴方の写真を一枚でも撮ってたほうがいいです」 「お前はそういうヤツだよ」 「パートナー、嬉しいです」 どうやら嬉しかったらしいテイラーは、しばらくはにかんだ後で、「ウェディング・フォト的なものを撮りましょう」と言った。 「ケッコンしてない」 「的なです、記念の写真です」 「誰に頼む?」 「僕が、タイマーかリモコン使って撮ります」 「あそーか、で、どこで?」 「…どこがいいですか?」 「お前のスタジオでよくない?」 「まぁ、そうですけどーーー」 「人に聞いといて不満か」 「ベッドがいいと思います」 「何?ハメ撮りは趣味じゃないだろ」 「だから、ベッドの僕達を、引きで」 「アァ」 「…」 「僕らっぽい」 「はい」 そんなわけで。 その夜から、今更っちゃ今更だけど、セックスをする夜は記念撮影をするようになった。 シャッターのタイミングはさまざま。コトに及ぶ初っ端のキスだったり、彼が前戯してるとこだったり、ふたりで腰振ってるとこだったり、僕がイッた瞬間だったり、事後にピロートークしてる時だったりと、テイラーの気分次第だ。 もちろん、どの写真もまぁそれは映画みたいに芸術的に美しくて、さすがは俺の男だと感心する。 …こんな風に思ってしまうくらいだから、今となっては、僕の感覚も随分麻痺していて、いずれはテイラーのフォトギャラリーをどこかに作って(バトラーズ・ワーフ周辺がいいかもしれない)、彼の大事な大事な僕の写真を全て見れるようにしたっていいとさえ思い始めている。彼に「死ぬ前には燃やせ」と言った、あの、FAMEで撮った秘蔵写真も込みで。

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