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第二章 恋の誤爆と効かないフェロモン2

***  昼休み、購買で買ったメロンパンを手に、俺と悠真は勉強から解放された男子たちが騒ぐ学食で、空いてる席に並んで座った。朝のフェロモン大失敗が何度も頭を過ったが、こうやって悠真と一緒にいられるだけで、不思議と心が落ち着いていく。 「あのさ悠真、朝の騒ぎどう思った?」  お互い教室で弁当を食べた後に、こうしてデザートのようにパンを食べるくつろいだ環境なら、どんなことでも喋りやすいだろうと考え、話題を振ってみる。  そして俺の作戦がズッコケた理由がちょっとでもわかれば、次に活かせることができるだろう。  悠真はメロンパンにかじりつきながら、少しだけ小首を傾げた。 「うーん、そうだな。陽太って、本当に元気だなって思ったよ。みんなが騒いでいても、陽太らしさを貫いてるなって」  そう言ってにっこりほほ笑み、美味しそうにメロンパンを口にする。 (いや、そのみんなが騒いでいるのは、俺のフェロモンのせいなんだけど。その理由に、コイツは気づかねぇのかよ!) 「でもさ、みんなが『いい匂い!』とか騒いでたの、わかっただろ? あれが俺のフェロモンなんだけどさ……」  鈍い悠真に対して、ちょっと意地悪く聞いてみた。悠真がなにかを感じていたなら、ここでわかるはずだと思ったのに、隣でパンを一口食べてから、さっきとは反対側に首傾げて、 「匂い? うーん、陽太って汗っかきだから、そういう匂いかなって思ってた。俺、フェロモンの匂い自体よくわからないし」 (――汗っかき!? コイツにとって俺のアルファの魅力が、汗扱いだってことなのか!?)  心の中で絶叫したけど、悠真の穏やかな顔を見てると、とんと怒る気にもなれなかった。 「陽太の匂いって、焼き立てのパンより美味しい匂いがするのかな?」 「俺のフェロモンを、パンの匂いと一緒にすんな!」 「ふふっ、ごめんごめん」  まったく悪びれた様子を見せず、おかしそうに笑う横顔に話しかける。 「悠真、ベタでも反応するヤツがいるのに、おまえはどうなってんだ?」  悠真自身に踏み込んだ質問をしてるのがわかるので、声のトーンを極力落として訊ねると、まぶたを伏せて俯いた。 「俺、昔からそういうのに鈍いって言われるよ。家で姉ちゃんがフェロモンの匂いで騒いでいても、『静かに読書してな』って母さんに言われたし。姉ちゃん以外の家族は、フェロモンを感知しない体質みたいでね」  悠真は一瞬だけ瞳を揺らしたあと、なにごともなかったようにメロンパンを一口かじる。らしくない態度が見え隠れしたものの、告げられた言葉に思いっきり頭を抱えたくなった。  もしかしてと思ったが、フェロモンを感じない体質だったとは。というかフェロモン以前に、外部の刺激に慣れてねぇだけじゃねぇか?  呆れ果てた俺の隣でマイペースを貫き、美味しそうにパンを食べる、かわいい悠真とふたりきりの状況に浸るべく、まぁいいかって自分を納得させた。  昼休みの残り時間、悠真とメロンパンを食いながら、作戦の立て直しを頭の中ではじめたのだった。

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