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第五章 恋の鼓動と開く心2

*** (お昼休み、いつも図書室で本を読んでいたけど、陽太の勉強を見てあげたほうがいいかなぁ?)  お弁当を食べ終え、トイレで用を足して、教室から聞こえてくるざわめきを聞きながら考え事をしていたら。 「あっ、月岡だ!」  背後から声をかけられ振り返ると、そこにいたのは喋ったことのない、隣のクラスの生徒だった。 「榎本くん、だよね?」  1年のとき、佐伯絡みでよくクラスに顔を出していた関係で彼を知っていた。一度も喋ったことのない俺を知ってるとは、思いもしなかった。 「そうそう、俺榎本!」  ゴールデンレトリバーと同じ色の髪の毛は、日に当たると黄金色に光り輝き、元気な彼をキラキラさせる。人懐っこそうな笑みを浮かべて、俺の顔をまじまじと見つめた。 「月岡、いま暇か?」 「俺に話があるのかな?」  オメガなれど筋肉質で大柄な榎本くんが近づくだけで、ものすごく圧がある。陽太は俺より背が高いけど細身だし、無言のプレッシャーという名の圧を押しつける佐伯のほうが、榎本くんよりマシかもしれない。 (それに俺が知ってるアルファの幼馴染に、ちょっとだけ体格が似ているかも――)  体を小さくしてじりじり後退りしたら、榎本くんは慌てた様子で両手をわたわたさせた。 「あっ、ごめんごめん。怖がらせる気はないんだけど、話がしたくてテンションあがっちゃった」  済まなそうに頭を下げる彼に「俺もごめんね。ちょっとビックリしたんだ」って理由をきちんと話して、退いた分だけ榎本くんに近づいた。すると、後頭部を掻きながら口を開く。 「西野委員長と月岡、最近仲がいいじゃん?」 「そうだね、クラスの中ではそうかも」  よそのクラスの榎本くんに指摘されたのは、一緒にいるところを見られたからだろうか。 「聞きたいことがあるんだ。涼と……佐伯と西野委員長の関係について」 「関係?」  訊ねながら首を傾げたら、瞳を潤ませてぽつぽつといった感じで喋りだす。 「ホントは昼休み、涼と一緒に過ごすハズだったのに……登校直後にハプニングがあって、それがなくなっちゃったんだ。今朝見た涼の優しそうなほほ笑み、西野委員長と親密だからなのかな。涼のレアな笑顔、俺だって傍で見たいのに」  肩をがっくりと落としてションボリする感じが、散歩に行けなくなった大型犬と表現したらいいかもしれない。それを目の当たりにして、すごーくかわいそうになった。 「わかった。榎本くんの話を聞いてあげる。佐伯や陽太を気にしないで話せる、図書室でいいかな?」  勉強、教えてあげられなくてごめんねと、陽太に心の中で謝りながら、榎本くんを引き連れて図書室に向かった。

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