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第五章 恋の鼓動と開く心4

***  体育祭当日、各クラスは待機場でそれぞれ士気をあげていた。特に隣にいるA組の盛りあがり方が尋常じゃなく、俺らのクラスとC組はそれを見てドン引いている現状だった。 「西野、なんでA組はあんなに煩いんだ」  苛立った様子の佐伯に話しかけられたが、俺だって委員長として、クラスを盛りあげなければと困っている。 「A組の委員長は、1年のとき一緒にクラス委員をしてたヤツだから、昨年俺がやった景品をかけているんじゃないかと思う」 「最低だな。もので釣っていたのか、おまえは!」 (昨年のことで佐伯から叱られるとは、時差がありすぎだろ……) 「ものじゃなく人。一番がんばったヤツには、かわいい女子を紹介するっていう」 「ウチのクラスでも、それをすれば良かったんじゃないのか? 彼女が欲しいヤツが、そこら辺に転がってるだろ」 「だって佐伯はそういうの、断固拒否すると思って」  済まなそうに告げたら、ぷいっと顔を背けられた。  体育祭が終われば中間テスト。それが終われば修学旅行が待っている! 悠真と旅行ができる前に、なんとしてでも中間テストで学年5位以内に入らなければならない。条件を満たして悠真に恋を教えるべく、修学旅行先で友達以上になるために、俺は毎日がんばっている。 「陽太、大丈夫?」  Tシャツの裾を引っ張る感触で振り返ると、悠真が心配そうな面持ちで俺を見上げた。 「俺?」 「いつもより顔色が青いよ。ちゃんと寝てる?」 「お、おう! 睡眠時間は削らずに、勉強してるんだけどな」  悠真に嘘をついた。死ぬ気で勉強しなきゃ、学年5位以内には入れない。 「俺は短距離走だからすぐに終わるけど、陽太は3キロ走とリレーの両方に出場でしょ。大変じゃないかと心配で」 「そんなヤワな体じゃないって。悠真は心配性だな」 (俺のことを心配してくれるの、すげぇ嬉しすぎ! なに、このかわいい天使は!)  テンションがあがるとフェロモンが出そうになるので、慌てて深呼吸を繰り返した。 「絶対に無理しないでね。陽太は頑張り屋さんだから、どうしても心配で目が離せない……」 「だったら俺の活躍を、その目でチェックしてくれよな!」  元気なことをアピールすべく、盛大に笑って悠真の背中をバシバシ叩いた。 「陽太、痛いよ」 「アハハっ、悠真に俺の気合いを注入してやったんだ。ありがたく思えよ!」  こうして無理やり自身の気合いを上げて、クラスの雰囲気作りに精を出す。失敗続きが功を奏して団結力が増したことと、佐伯が放課後に特別メニューで帰宅部のヤツらの体力を向上させたのは、今年の体育祭に必ず生きてくるハズ。 「みんな! 日頃の練習の成果を、ほかのクラスに見せつけてやれ。俺たちなら優勝できる!」  A組の盛り上がりに負けない声を出して、右腕を突き上げた。それに倣うようにクラスメイトたちも「やってやる!」と大きな声を出した。  悠真はどこか恥ずかしそうに、小さく腕を上げている姿がすげぇかわいくて。 「あ……」  ほんのちょびっとだけフェロモンが出てしまったが、事情を知っているからこそ、なにも言わずにニヤニヤするクラスメイトの視線を、華麗にスルーするしかなかった。

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