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第六章 恋のはじまりと揺れる未来10
「よし、ここまでで大体解けたな」
俺がシャーペンを置いた瞬間、悠真はほっとした笑みを浮かべて、俺に寄りかかってきた。
「ふぅ……やっぱり、陽太と一緒にやると、進みが早くて助かるな」
「お、おう」
肩にかかる重みと髪からふわりと香るシャンプーの匂いに、息が乱れそうになる。
「ねぇ、もうちょっとだけ、このままでもいい?」
顔を上げずにそう呟く悠真の声が、やけに甘い。
「べ、別にいいけど……勉強は?」
「今は休憩中」
そう言って、悠真は俺の袖口をそっと引っ張った。気づけば、机から少し離れてベッドの端にふたりで並んで、休憩することになる。
「ほんとに、この間の続きみたい」
「このあいだ?」
「うん。公園で……」
悠真が恥ずかしそうに言いかけて、俺の胸が一気に熱くなる。思わず手を伸ばして、絡めていた指をもう一度ぎゅっと確かめるように握り直した。
「……俺も、続きがいい」
口にしてから、やべぇこと言ったかもって焦ったけど、悠真はそっと目を細めて笑った。
次の瞬間、俺の肩に頭を預けてくる。
「じゃあ……ちょっとだけ、ここで」
囁き声が耳に落ちて、心臓がまた跳ね上がった。
(――完全に宿題どころじゃねぇ)
肩に頭を預けたままの悠真は、俺の手をそっと撫でるように動かした。
「陽太の手……あったかい」
甘く囁かれる声に、背筋までぞわぞわする。
「そんなこと言って、また俺を浮かれさせる気だろ」
「ほんとのことを言ってるだけだよ。ポカポカが伝わってくるし」
上目遣いでそう返されると、理性なんて簡単に吹っ飛ぶ。気づけば俺は、悠真の顎をそっと掬い上げていた。
「悠真……ちょっとだけな」
そう呟いて唇を重ねる。触れるだけのはずが悠真が小さく息を呑んで、逆に俺の服をぎゅっと掴んできた。その反応が嬉しくて、つい深く口づけてしまう。柔らかい唇が何度も重なって、胸の奥が熱くて苦しくなる。
「んっ……陽太……ぁっ」
はにかんだ声で呼ばれて、俺は思わず腕をまわして引き寄せた。細い身体がすっぽり俺の中に収まって、逃がしたくないって気持ちがますます膨らんでいく。
「宿題……ほんとに終わらなくなるぞ」
「いいよ、少しくらい。だって今、すごーくしあわせだから」
悠真が小さな声で言って、また俺に寄り添ってくる。
(やべぇ、これ以上は本気でやばい)
そう思いつつも、俺はもう一度だけ悠真の髪に口づけを落とした。
「悠真……もう、我慢できねぇ」
囁くように言った瞬間、悠真はびくっと肩を震わせた。けど拒む代わりに、俺のシャツをぎゅっと掴んで引き寄せてくる。
唇が重なって、さっきよりもずっと深く絡まった。舌先が触れ合った瞬間、胸の奥が熱で爆発しそうになる。
「ん……うっ、ふ……」
小さな吐息が混じって、理性を削り取っていく。気づけば、俺は悠真をベッドに押し倒していた。体重をかけないよう必死に気をつけながらも、すぐ下に感じる体温と鼓動に、心臓が暴れそうになる。
「陽太……」
潤んだ瞳で呼ばれて、もう逃げられなかった。頬や首筋に次々と口づけを落とす。細い首に唇を寄せたとき、悠真が「やっ……」と小さく声を洩らした。
「……怖かったか?」
俺が問いかけると、悠真は真っ赤な顔で小さく首を振った。
「大丈夫、怖くないよ……むしろ……もっと……」
その言葉に頭の中が真っ白になる。喉を鳴らしながら、また唇を重ねた。今度はもう、宿題なんて完全に忘れていた。
悠真の胸に手をついたまま、俺は唇を重ね直した。さっきまでの軽い口づけじゃなくて、もっと深く――互いの呼吸が混ざるまで。
「ん……っ、陽太……」
震える声が耳の奥に響いて、さらに熱がこみ上げる。自然に、指先が悠真のシャツの裾を掴んでしまう。布越しに伝わる体温がじんわりと熱くて、そこから離れられなくなった。
「ここ、すげぇあったかい」
思わず呟くと、悠真が顔を真っ赤にして目を逸らした。
「それは……陽太が触るから、余計に……ね」
理性がギリギリのところで踏ん張る。悠真を押し倒したまま、シャツの上から胸元を撫でる。薄い生地越しに感じる鼓動は、俺の心臓と同じくらい速かった。
「やべぇ。悠真の全部が欲しくなる」
「俺も……陽太がほ、しぃ……」
潤んだ瞳で名前を呼ばれるだけで、喉がカラカラになった。首筋に唇を落とすと、悠真が小さく身をよじる。
「ん……そこ、くすぐったい……けど……嫌じゃない……」
シャツの襟元に指をかけかけて、必死に踏みとどまる。今ここで進んだら、もう戻れなくなるのはわかってる。だけど過去に、悠真は五十嵐に襲われた経緯がある。こういうことは慎重にならなきゃダメなのに、理性がなし崩しになった。
「……ごめん、止まれねぇかも」
正直に漏らすと、悠真は少しの沈黙のあとで微かに頷いた。
「陽太なら……きっと平気」
その言葉に理性がぐらりと揺れる。けれど同時に、愛おしさで胸がいっぱいになった。
悠真の頬に触れたまま、視線を落とす。胸元に並んだボタンが、やけに無防備に見えて理性が軋む。
「ボタン……開けてもいいか?」
囁くように問うと悠真は一瞬驚いたように目を見開いたが、やがてゆっくりと瞼を伏せ、小さく頷いた。
その仕草に頭が真っ白になる。指先でそっと一番上のボタンに触れると、薄い布越しに悠真の熱が伝わってきた。
「……んっ、陽太……」
甘い声が喉から零れる。ボタンを外しかけた、その瞬間だった。
――ガチャリ。玄関のドアが開く音が家の中に響いた。
「……!」
ふたり同時にびくりと体を強張らせる。心臓が跳ね上がり、頭の中の熱が一気に冷える。
「だ、誰か帰ってきた?」
悠真が慌てて服の裾を直す。その顔は真っ赤で、耳まで染まっていた。
「……くそ、タイミング最悪だろ」
俺は額に手を当て、深く息をつく。けれどその指先にはまだ、悠真のシャツの感触と鼓動の余韻が残っている。
――あともう少しで、戻れなくなるところだった。
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