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エピローグ

 あの頃と変わりない空間に、あの頃はなかった無邪気な笑い声が響き渡る。幸せな家庭がそこにはあった。ずっとずっと、欲しかったもの。孤独だった僕の憧れが現実になった。  「ままは、ぼくの!」  「だめ、これだけは譲らない。陽は俺のだから」  「だって、まま、ちゅーしてくれたもん」  「ふーん、俺なんてね、」  「こら、何言おうとしてんの」  大人気なく二歳児と言い合うのは、トップアイドルのアルファ様。こんな姿、あの頃は想像すらしなかった。初めは大丈夫かと心配していた翠と玲の仲も問題なく(?)、率先して育児に参加しようとする翠に助けられてばかりだ。  遠慮して、萎縮して、自分から歩み寄る努力もせずに、ただ住む世界が違うからと決めつけて、壁を作っていたのは僕だった。こんなどうしようもない僕を翠が諦めなかったから、今がある。確かな幸せを感じながら、未来を描ける。  「もう、毎日同じこと繰り返して飽きないの」  「だって、」  「ぱぱがわるいもん」  「玲は僕のこと大好きだもんね。翠も子ども相手に張り合わないでよ」  「これは大事なことなんだよ」  真面目くさった顔でそう宣う翠に思わず笑みが溢れる。玲もそっくりな表情をしているけれど、いつまで僕にべったりなんだろう。反抗期がきたら、「うるさい」「あっち行って」とか言われちゃうのかな。成長は嬉しいけれど、それは寂しいなぁ……なんて。  そんなそっくりな最愛の二人に、今日は僕からのサプライズを用意している。だから、言い合ってないでちゃんと聞いてほしいのに……。そんなことを考えながら、翠と玲の手を取る。  「玲、」  「なぁに?」  「次の春が来たらね、玲はお兄ちゃんになるんだよ」  「え!?」  「おにいちゃん……」  僕の言葉を聞いた二人の瞳がまん丸になる。立ち上がった翠ががっと肩を掴む。その勢いに圧倒されていると、控えめに玲が僕のズボンを掴んだ。  まだ言葉の意味をちゃんと理解できていないみたいで、考え込んでいる様子。そんな玲の頭を優しく撫でていれば、目を丸くした翠が大きな声を出す。普段の冷静な姿からは想像もつかないほどの慌てっぷりに、サプライズ成功だと口角が上がる。  「ほんとうに!?」  「……うん」  「っ、ありがとう」  強く抱き締められた後、ハッとした翠が「ごめん、力入れすぎた」とすぐに体を離す。離れていった温もりが寂しくて、玲を抱き上げてから、今度は僕から翠を抱き締めた。この温もりが何よりも幸せで愛おしい。三人でのハグは、春になったら四人になる。なんて待ち遠しいのだろう。  たった一人で運命を探していた彼の寂しいお城は、やがて愛の巣に変わり、子どもたちの成長を見守る暖かな空間になった。  始まりは突然、あの夜のコンビニで。自分だけの特別、世界中でたった一人の存在を求めて、運命の赤い糸を辿って僕たちは出会った。  「陽、」  「ん?」  「愛してる」  「ふふ、僕も」  言葉だけじゃなく、その熱い視線から愛が伝わってくる。目移りなんてさせないけれど、僕だけをずっと見つめていてね。  彼はトップアイドルアルファ様。  項に咲く花が、運命は確かにここにあると証明している。  【完】

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