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第148話

 その日の夜。  昼間に伝えられていた通り、リオールが後宮にやってきた。  アスカと同じ寝台に座り、身を寄せ合いながら会話を楽しむ。 「──陛下、少し、ご相談が」 「ああ、なんだ。いいことか?」 「私にとっては、とても。陛下にとっては分かりませんが、いいことであれば嬉しいです」  そう言って、リオールの手に触れたアスカは、期待を込めた瞳で彼を見つめた。 「私と、逢瀬をいたしませんか?」 「逢瀬……!」 「はい。秘密で街に出て、普通の恋人同士と変わらない、逢瀬をしてみませんか?」  リオールの目が僅かに見開かれ、そして手元に視線が落ちる。  何も言わなくなった彼に、緊張して心臓がバクバクと音を立てているが、気付かないふりをして涼しい顔を繕った。 「……それは、何故だ」 「え……?」 「私は、知っているぞ。そなたがお忍びで街に視察に行きたいと言っていることを」 「!」  まさか、彼はもう既に全てを知っていたのか。  アスカは気まずさから視線を逸らし、そっと手を離した。 「私の恋心を弄んだな」 「そんな! 私は……視察に行きたいのも本当です。しかし、陛下と秘密で逢瀬を重ねるのも、楽しいだろうなと思ったのも、事実です。……弄ぶだなんて……ひどい」 「!」  むにっと下唇を突き出したアスカに、リオールは胸を高鳴らせ、思わずその身体を抱きしめていた。 「じょ、冗談に決まってるだろう! そうだな。一石二鳥だ。共に行こうでは無いか」 「……本当に……?」 「当たり前だ。私は嘘は言わないぞ」    それはつまり──許可、ということ。  アスカの瞳がぱっと輝き、口元に笑みが咲いた。 「ありがとうございます……陛下、愛しています!」 「それは……ずるいぞ……」  囁くように言った彼が、そっとアスカの額に唇を落とす。  そのまま、押し倒されるように寝台に寝転んだアスカは、衣の裾から差し込まれた手にドキリとした。 「陛下……リオール様、もう、お話は終わりですか……?」 「なんだ。今ならまだ間に合うが、他に話があるか」 「ふふっ、ありません。私も陛下に触れたいです」  リオールの顔に手を添えて、そっと唇を重ねる。  彼は柔らかく目を細めると、止めていた手の動きを再開させた。

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