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第147話
説得により国王宮へ戻って行ったリオール。
アスカは小さく息を吐くと、自身の政務に向き直ることにした。
「清夏、昨日話した街へ視察に行く件についてだけど……あれは、どうなってる?」
「はい。準備を進めております。ただ、王妃様がお望みの『お忍び』は難しいかと……」
「え、どうして?」
日毎届く民からの請願書。それを読んだアスカは、街の様子を知りたいとお忍びで視察に行こうとしていた。
自身の育った村の事は知っている。しかし、逆をいえば村と、この王宮のことしかわからない。
民の声に耳を傾けるのも政務のひとつであるのなら、自分の目で見たもの、耳で聞いたことを頼りに請願書の返事をしたい。
「おそらく、陛下がお許しになりません」
「え!?」
「お忍びとなりますと、護衛の人数が限りなく少なくなります」
「でも……私が王妃だなんて、誰も気づかないはずでしょう?」
「それは関係ございません。そもそも、いつどこで、誰が、どのようなことに巻き込まれるかがわからないのですから」
「……」
アスカの口元がへの字に歪む。
薄氷が苦笑をこぼすが、しかし清夏に何かを言うこともないので、彼も同意見なのだろう。
「清夏も薄氷も……私の気持ちをわかってくれないの……?」
「もちろん、王妃様のお気持ちは理解しております。しかしながら、危険だと分かっていて頷く従者は居ないかと」
「王妃様、お忍びでなければ……きっと問題にはなりません。陛下もご納得されるかと。もしかすると陛下もご一緒されるやもしれませんし」
薄氷が宥めるように言う。
しばらく拗ねていたアスカだったが、ふと思いついたことがあり、目を輝かせる。
しかし、二人の前で思いついたことを吐露してしまうと、きっと反対されるに違いない。
夜、ふたりきりの時にそっと伝えよう──そう思うと、自然と微笑みがこぼれた。
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