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第146話

第三章  アスカが王妃となって、はや一月。  あたたかな風が頬を撫でる。  王妃として迎える初めての春。  新たな生活にも徐々に慣れてきたものの、彼はあることで困っていた。 「陛下……あの、そろそろお戻りになりませんと……」 「……いいや、ここで政務をする」 「それは……ほら、陽春が困っておりますよ」 「しかし、王妃と共にいる方が捗る」 「……」  そう返され、アスカは困ったように眉を八の字にして、そばに控える陽春、清夏、薄氷を見た。だが、三人とも同じような苦笑を浮かべているだけだった。  王政が落ち着いたこの頃、リオールは後宮に足繁く通っていた。最近ではここで政務を行うことも増え、アスカはまだしも、側仕えたちはバタバタと忙しそうで、申し訳なさを感じる場面も増えていた。  そして、後宮は基本、王や王子もしくは宦官でなければ男性は入ることができなくなっているのだが、今現在、ここに住まうのはアスカだけということがあり、陽春と薄氷は特別に入室を許可されている。 「陛下、それであれば、私が国王宮へ参りましょう」 「……良いのか?」 「もちろんでございます。いつでも、貴方様がお呼びになられましたら、私が参ります。ですので……陽春をあまり困らせてはいけません」 「──陽春、困っておるのか?」  唐突な問いかけにアスカはドキッとし、問われた陽春は少し困ったように笑った。 「陛下」 「……」  アスカはその一言だけでやんわりと釘を刺す。リオールは面白くなさそうに目線を落とした。 「ようやくアスカと番になれたのだぞ。四年だ。四年、待った。……少しくらいの我儘を許してくれても良いと思わぬか」 「……」  その言葉に、胸がキュンと締め付けられる。  年下でありながら、これまでそうした甘えた態度を見せたことのなかった彼。だからこそ、その不意の一言にときめいてしまう。 「で、でしたら」 「……?」 「それは、夜に。ふたりだけの時に、しませんか……?」 「!」 「それなら……誰の手も煩わせませんし、私も、陛下とふたりきりの時間をいただけるのは嬉しいです」  正直な想いに、リオールは目を細めて微笑んだ。  ひとつ頷き、彼はそっとアスカの手に触れる。 「では、夜に。私がここに来よう」 「え……?」 「そなたに無理をさせるかもしれぬからな。朝、起きた時に国王宮からここまで戻るのは辛いだろう」 「っ!」  みるみるうちに頬が赤くなる。  リオールはとても満足そうで、そんなふたりを見ていた陽春たちも、先ほどまでの困惑顔とは打って変わり、どこか微笑ましそうな表情を浮かべていた。

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