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第145話
「まず、後宮の管理全般が王妃様の役目となります。女官や侍女を含む従者たちの人員配置や勤務状況、生活環境の調整なども求められます」
「……そんなに多くの人を、私が……」
「はい。後宮の者たちは、皆、王妃様の采配を仰ぎます。王妃様の言葉ひとつで、空気も変わるのです」
その言葉にアスカはたじろぐ。自分の指示で、誰かの生活が変わる。
それを知ってしまえば、責任の重さが、怖くなった。
「加えて、民からの請願の一部──とくに女性や子どもに関する事柄は、王妃が耳を傾けるべきとされております」
今度は薄氷が、やわらかく言葉を繋ぐ。
「婚姻に関する悩み、貧しさゆえに子を育てられない者、暴力に苦しむ者。……そうした声は、陛下ではなく、王妃様だからこそ届くのです」
「……私に、そんな大切なことが務まるのかな……」
思わず漏らした本音に、清夏はぴたりと視線を合わせた。
「不安に思われるのは当然です。しかし、政は慣れと決意です。そして何より、陛下が信じておられる」
「……うん。そう、だよね」
──リオールは、信じてくれている。
あの人の横顔を思い出す。常に民のことを考え、誠実で、強く、そして優しい。
そんな人の隣に、ふさわしい存在になりたい。けれどその想いが強くなればなるほど、自分の未熟さが浮き彫りになる。
力も、知識も、足りない。場数も踏んでいない。
それでも──
「ありがとう、清夏、薄氷。……少しずつになるだろうけど、ちゃんと覚えていく。だから、見守っていてほしい」
二人はそろって一礼した。
「かしこまりました」
アスカは深く息を吐いた。不安は消えない。けれどそれでも、逃げるわけにはいかない。リオールの番となった今、自分はもう一人の『柱』であるのだから。
第二章 完
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