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それから約1ヶ月後。ほぼ傷が癒えた俺は、前倒しで退院した。 そして、ネロの屋敷に戻った夜のこと。 晩飯を終える頃、来客があった。 ネロがガキみたいにはしゃいで迎えた全身タトゥーだらけの女は、昔の馴染みのタトゥーの彫師だという。 どんな肩書を得て、どれだけ成り上がっても、ネロはいつまでも昔からの馴染みを別け隔てなく大切にし、場合によっては世話を焼いていた。そういうところばかりはギャングらしい昔気質な一面が彼の求心力に繋がり、広く慕われ、愛される理由でもあるだろう。 リビングに簡単な施術スペースを用意したネロは、彫師に冷蔵庫から取り出した赤黒い液体の入ったパックを渡した。 「おい、なんだそれ」 「アンタの血だ」 しれっと答えたネロは、上半身を脱いでリクライニングソファに横になった。 側では、彫師が俺の血に何やら混ぜて、恐らくは墨を作っている。 「意味がわからない」 「入院中、寝てる時にもらった」 「いつ?」 「…2日目くらい?」 「モルヒネが入ってる」 「好都合じゃん」 「アホかーーー」 「大した量じゃない」 「勝手に使うな」 「いくら?」 「…100」 「やっす」 「じゃあ1000」 そして、30分もしないうちに、ネロの左胸の乳首の下には、赤黒い墨で“Alec”だけのシンプル過ぎるタトゥーが彫られていた。それは、何かの暗号でなければ俺の本名で、とんでもないアホだと閉口した。 「…なんだ、ソレ」 「なんでも…あれ?アレックスだっけ?」 「アレックだ」 「うろ覚えだったけど合っててよかった!」 「彫(や)る前に確認しろ!アレックスだったらどうするんだ!?」 「合ってんだからいーじゃん」 「なんでソコなんだ」 「なんとなく?」 「お前はそういうことしないと思ってたーーー」 「ファックしよう」 「ダサすぎて萎える」 「1ヶ月も禁欲してたとかマジで信じられない!」 「………」 こうして、ネロと俺の日常は戻った。 * * 俺は何が悲しくて、自分の名を眺めながら男の体を舐め回しているのか。 手のひらに集めた胸の肉を捏ね回すと、刻まれたばかりの俺の名から血が滲み出る。生ぬるく鉄臭い体液を喉が乾くほど啜り、血で濡らした舌で乳首まで辿る。 ネロはもう、乳首にピアスはしていない。穴(ホール)もとっくに塞がっているが、相も変わらず、胸を弄(いじく)りながら尻を指で掻き倒してやれば、バカみたいによがって昇天する。 久しぶりに戻ったネロの中は、知り尽くしたそれより硬く、窮屈だったが、乱暴に抉るだけでみるみる熟して、焦れて俺に絡みつくカラダをイトオシイと思う。 俺の頭を抱いたネロが、首の傷痕をしつこく吸う。 そしてネロは、齧り付いた耳の穴を舐りながら、甘ったるい吐息に混ぜて、彼しか知らない彼の本当の名を囁いた。 「………」 うっとりと笑う目が、鮮やかに濡れて光る瞳が、俺を見つめている。 俺にとって、そんなものの意味はなく、どうでもよかった。 この仕事が済んで眠りに落ちる頃には、“それ”を忘れているだろう。 「ああ」と返した俺は、もう一度、血が滲む俺の名と乳首をまとめてしゃぶってやった後で、ネロの口を塞いで、ドラッグのような快楽を貪り続けた。

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