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第6話

「桃源郷に行くんッスよね。どうやって行くんですか?」 「通常、天国へはあの世の門を潜って行きますが。今回は時也殿がいるので、正規の方法は使えません」  地獄の役人に時也を見られたら、花どころではなくなるからだという。 「地獄に役人なんかいるんッスか」 「獄卒(ごくそつ)といって、亡者を管理し、罰を与えるのが、その鬼に当たります」 「ってことは、この赤鬼は役人じゃねぇんですか」 「オレはちげぇよ。ただの料理鬼だ」  この辺りに飯屋を営んでいて、ここには仕事で地獄鳥の卵を来たという。 「絶品だとかなり評判なんですよ」  食べさせられなくて残念だと、嘆く将国に時也は苦笑を浮かべる。 「やっぱり、そういうのって食べちゃいけないんですね」 「ええ。黄泉竈食ひ(よもつへぐい)と言って、食べてしまえば、確実に黄泉の住人になります」  生前の罪で、責め苦を受ける亡者ならばともかく、現段階で時也殿はそれには属さない。  それどころか、三途の川を渡らず、あの世の門も潜ってもいない。黄泉の国からすれば、認識すらされていない宙ぶらりんの存在が時也である。 「以前、小野篁という貴人が井戸を通って、地獄に来たらしい事があるらしいので、前例がないわけではありませんが」  仮に、役人に見つかれば、寿命次第で現世に強制送還。  現世の肉体が既に荼毘に臥している時也の場合は、忽ち閻魔殿に連れて行かれ十王の裁きを受ける事になると将国は言う。 「一見ないように思えて、ここにも道理はあります。せめて、我が主君に御目通りするまでは、勝手をするわけには行きませんので」 「そういやぁ、俺どうやって地獄に来たんだ?」  はて、っと疑問が湧いた時也は首を傾げると、あからさまにギクリと、将国の肩が跳ねた。 「そ、そんなことより、早く桃源郷へ向かいましょう!役人に見つかっては最後。せっかく選べるはずの来世が白紙になってしまいますよ」  さぁさぁ行きましょうと将国は慌てて時也を立たせると、奥の方へと歩いて行く。 「今回、桃源郷へは秘密裏に作られた縄ばしごを登って行きます」

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