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第2話

安里side 僕が彼に会ったのは、桜の舞い散る風の日。思わず目を閉じてしまうほどに風が吹き、その空色の長い髪がふわりと舞い上がる…。鬱陶しそうに睨みつける目が印象的に残った。 先輩だと知ったのはその後すぐだった。入学式に出ていなかったからだ。人数が多くとも見失うことのない髪色だ。帰りがけに見かけた時に思わず声をかけた。 「あのっ!…先輩ですよね?」 「……俺?…多分、そうだね。なに?」 「えっと…お名前聞いてもいいですか?」 「まず自分が名乗ったら?」 衝動に任せて何も考えていなかった。一目惚れというものだと思う。この日から僕の人生は変わった…。酷く恐ろしいものに。 「僕は、桐生安里です」 「俺は天宮晴。他に用がある?」 「いえ、あの、ありがとうございます」 「そ、じゃ。またね」 同性で恋愛など…。未だよく思われない。色んな感情の籠った瞳で見られることだと思う。それも良くないものも多い…。生きやすくなったといっても…。 あの綺麗な人をそんな目に晒したくない… 僕のものにして閉じ込めてしまいたい… 「…天宮先輩」 中国古代の杞の人が天が崩れ落ちてきはしないかと心配したという…。中国の古典列子に由来する古事成語「杞憂」 僕はいま、心配しなくていいことを心配しているのだろう…。先輩と付き合えるわけがないし、先輩が自分に惚れることもないだろう。平凡より少し下にいる自分になんの取り柄があるというのか…。なんのメリットがあって付き合うと言うのか… 「付き合えたらなんて…烏滸がましい…よな…」 恋に落ちるのは一瞬で…。希望すらない。それでも、自分に落ちてほしい気持ちがあって…。人の好奇な目に晒したくなくて…。 もしも…。明るく浮かび、心を暗い底に突き落とす妄想。恐怖が心を覆う。 無駄な心配とわかっていても浮かんで消えないこの恐怖を誰とも共有出来る気がしない。あの説得された中国古代の杞の人はどんな気持ちだったのだろう…。本当納得したのだろうか…。自分は納得できそうもない…。 どうか空よ落ちないで…

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