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第3話
晴side
桜の舞い散る風の日。長い髪がふわりと舞い上がる…。本当に鬱陶しい…
好きで伸ばした髪だが、風の日は絡まって仕方ない。痛いほど突き刺さる視線を追って振り返れば、淡い桜に似合わないほど浮き上がる黒…。美しい……
目が合ったような気がしたが…。光を吸収する黒い瞳は目があっているのかいないのか…もはやどこを見ているのかすらぼんやりしている。それがやけに心に引っかかる…。
「あのっ!…先輩ですよね?」
「……俺?…多分、そうだね。なに?」
今日は入学式だった…。始業式と間違えて1日早く来た学校。帰ればよかったのに、彼にもう一目会いたかった。一目見れば心残りもなく帰れると思ったのに…
「えっと…お名前聞いてもいいですか?」
「まず自分が名乗ったら?」
声をかけられるとは思わなかったし、何も考えられなかった。なんとも冷たい態度…。動揺する心に、逸る心臓。嗚呼、これが一目惚れか…
「僕は、桐生安里です」
「俺は天宮晴。他に用がある?」
「いえ、あの、ありがとうございます」
「そ、じゃ。またね」
またね、なんて…。こんな最悪な出会いでまたなんてあるのか?ないだろ…。ないよな…。
母譲りの優しい顔立ち、中性的な方で、さらに身長が低い。威圧感はないと思う。だからこそ声をかけられるのだろうけど…。基本人見知りだから上手く話せない。
「あの子、また話せるかな…」
次があるのならゆっくりとアプローチしてみようか…。何もせずに諦めるのはちょっと違う気がする…。俺に落ちてくれないかなぁ…。
風が強いけど、まだ桜は残るだろうか…。もし叶うならその瞳に俺の色をうつして欲しい。この恋心、風に乗る桜と同じく舞い上がれ。
どうか、空から落ちないで…
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