3 / 3

第3話

晴side 桜の舞い散る風の日。長い髪がふわりと舞い上がる…。本当に鬱陶しい… 好きで伸ばした髪だが、風の日は絡まって仕方ない。痛いほど突き刺さる視線を追って振り返れば、淡い桜に似合わないほど浮き上がる黒…。美しい…… 目が合ったような気がしたが…。光を吸収する黒い瞳は目があっているのかいないのか…もはやどこを見ているのかすらぼんやりしている。それがやけに心に引っかかる…。 「あのっ!…先輩ですよね?」 「……俺?…多分、そうだね。なに?」 今日は入学式だった…。始業式と間違えて1日早く来た学校。帰ればよかったのに、彼にもう一目会いたかった。一目見れば心残りもなく帰れると思ったのに… 「えっと…お名前聞いてもいいですか?」 「まず自分が名乗ったら?」 声をかけられるとは思わなかったし、何も考えられなかった。なんとも冷たい態度…。動揺する心に、逸る心臓。嗚呼、これが一目惚れか… 「僕は、桐生安里です」 「俺は天宮晴。他に用がある?」 「いえ、あの、ありがとうございます」 「そ、じゃ。またね」 またね、なんて…。こんな最悪な出会いでまたなんてあるのか?ないだろ…。ないよな…。 母譲りの優しい顔立ち、中性的な方で、さらに身長が低い。威圧感はないと思う。だからこそ声をかけられるのだろうけど…。基本人見知りだから上手く話せない。 「あの子、また話せるかな…」 次があるのならゆっくりとアプローチしてみようか…。何もせずに諦めるのはちょっと違う気がする…。俺に落ちてくれないかなぁ…。 風が強いけど、まだ桜は残るだろうか…。もし叶うならその瞳に俺の色をうつして欲しい。この恋心、風に乗る桜と同じく舞い上がれ。 どうか、空から落ちないで…

ともだちにシェアしよう!