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第1話 プロローグ
プロローグ
東京駅丸の内北口改札前。懐古的な装飾が施されたホールである。
中年女性が集まって何やら曰く言い難い寂寥感が漂っている。
街から駅まで辿り着いて「じゃあね」「またね」と言いながらも別れ難いらしく、ぽつぽつとおしゃべりをしている。夕刻だがオフィス街の退勤時間にはまだ早く人影は少ない。
同窓会という程の大きな集まりではない。地方女子高校の同窓生のうち東京近郊に住んでいる者達がランチに集っただけである。
女の人生は常に誰かに振り回される。結婚すれば男の都合で引っ越して全国各地いや海外までも住まいを移さねばならない。
独り者とて会社の都合で転勤させられ、年古れば親の介護で居を変えることもある。
家庭とはまことに蜘蛛の巣のようなものである。一度絡め取られたら容易には逃げ出せない。ほんの少人数のこんな集いでも、夕食の支度に間に合う時間に解散となる。
家庭に無責任な男のように、その場の勢いで二次会三次会と夜っぴて騒ぐわけにもいかない。
千帆子 は高校を卒業後、東京の大学に進学して就職した。結婚後も東京近郊にへばり付くようにして生きて来た。
サラリーマンの夫の異動に伴い東京近郊を転居もしたが、都下は真柴本城市 に一戸建てを購入し二人の子供を育て上げた。
今や二人の息子は独立して、夫の定年退職後の生活を見据えるような日々である。
後は息子達が結婚して孫でも生まれるのを待つだけなのか。
やがてJR改札口を入って行く者、地下鉄入り口に、高速バス乗り場にと、それぞれが別れて行く。女たちは蜘蛛の巣にまた戻って行くのだ。
千帆子もJR改札を通ると、本城駅に向かう快速電車に乗り込むのだった。
電車の中で膝に置いた手をこねくり回しては考える。
一体自分の人生は何だったのだろう……と。
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