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6.契約結婚。

「戸籍にバツがつくのとかは、やっぱり嫌?」  うーん……?  しばらく考えて、首を傾げてしまう。 「――そう、ですねぇ……いや、そもそも、戸籍の紙なんて見ないし、別に、バツがついたからって、何の関係もないですけど……?」 「――契約結婚をしたことによって、バツがついても?」 「契約結婚……?」 「色んな事情で契約結婚をして、それを解消する時に、バツがついたら嫌かな?」 「――」  何の話だろうと思いながら、その状況を考えてみるけど。 「事情があって、それをして、バツがつくなら、別に……って感じですね。そもそも戸籍、父が父としてある時点で、別に綺麗じゃない気がしてるので」  考えながらそう答えると、北條さんは、ふ、と苦笑する。 「よっぽど、嫌いなんだね、父親のこと」 「まあ、そうですね。良い思い出もないので。だから別にバツがついても――」  そこまで言って、ふっと、この会話の意味に気付いた。 「北條さんって、今、オレに、契約結婚の話をもちかけてたりしますか……?」 「ビンゴだねぇ。さすが。賢いね」  さすがってどこから来てるんだろうと思いながら、明るい笑顔に、苦笑してしまう。 「今から事情、ちゃんと説明するから」  と、その時、部屋がノックされた。飲み物を届けにきた店員さんを、北條さんは見上げた。 「申し訳ないんだけど、今日は大事な話をしたいから、料理をなるべくまとめて用意してもらえますか?」  そう言った北條さんに、店員さんはにっこりと笑い、了解してから、部屋を出て行った。 「とりあえず飲み物だけ。じゃあ――そうだね。今日の出会いに、乾杯しよ」  そっとグラスを差し出されて、オレもグラスを持って軽く合わせた。一瞬、澄んだ音が響く。ひと口飲んだところで、北條さんがオレをまっすぐに見つめる。 「オレね、今、どうしてもやりたいことをやっていてね――三年くらいはかかるかなって、思ってるんだけど」 「はい」 「――実は、オレ……まあ、わりとモテるんだけどね……CEOになっちゃったら、本当、独身でいることが問題ある、みたいな、そんな感じで、見合いの話とかがすごい訳」 「……はぁ」  実は、わりと、とか前置きはいらないけどな。見るからに、絶対モテると思うし。 「告白されたり、そういう意味で意識されたり――Ωの子からは、ヒートで誘われたり、そういうことが、すごく多くて。やりたいことに集中したいのに、わずらわしいことが多すぎるわけ。結構偉い人からも、見合い写真とか届くから、無視するわけにはいかなくて、断るのも正直時間を取られるし、数が多いとものすごい手間なんだよね」 「……まあ、なんとなく、予想はつきます」 「結婚したら落ち着く、とも思ったけど――オレ、三年くらいは、忙しくて、今結婚したって、家庭を顧みることは出来ないと思ってさ。そんなの、結婚した相手が、不幸でしょ?」 「そうですね。結婚しない方が、相手の為ですね」  そこまで言って、ああ、そういうことか、と分かった。  オレの顔を見て、「悟ってくれたでしょ」と、北條さんが笑う。  

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