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13.頼りになる二人

 コーヒーは二人とも、ほぼ一気飲み、みたいな。 「いろいろ準備にとりかかります。瑛士さん、一任してもらっていいですか」  楠さんがそう言うと、「京也さんに任せる。派手に告知はしてね」と瑛士さんは笑う。  続いて、有村さん。 「マンションの譲渡は、隣の空き室だよな?」 「そう」 「あと、婚姻届と関わる書類は用意する――あとは何かあるか?」 「そうだな……拓真の業務外だけど。ひとつ、調べて貰ってもいい?」 「――ああ」  瑛士さんは、有村さんに近づくと、こそ、と何かを囁いた。  有村さんは黙って聞いていたけれど。分かった、と頷いた。 「じいちゃんとか父さんには、オレから連絡するから」 「当たり前だろうが」  有村さんはそう言って、コーヒーを飲み干すと、立ち上がった。楠さんもテーブルの上の手帳を持って、鞄に入れる。 「京也さん、オレ、今日はオフのままでいいよね」 「――むしろオフで居てください。こちらは忙しいので。また連絡します。どこに居ますか?」 「今日は、凛太を連れて、マンションに行く。行くとしても、買い物くらいかな」 「分かりました」 「じゃあな」  二人は、部屋を出ていく手前で、オレを振り返った。 「これからしばらく、相当、顔を見ると思うから。よろしく」 「僕はもっと見るかもしれません。よろしくお願いしますね」  二人はオレを見て、にっこり笑ってくれる。さっき入ってきた時とは全然違う。やわらかい感じ。 「なんて呼べばいい?」  有村さんに聞かれて、瑛士さんがオレを見て、笑う。 「凛太くん、て呼ばれるのでいい?」 「あ、はい」 「了解。凛太くんな」 「了解です」  有村さんと楠さんはそう言って、そのまま出て行った。 「――ごめんね、慌ただしい人達で。コーヒーくらいゆっくり飲んでいってもいいのにね」  クスクス笑いながら、瑛士さんは自分の席に戻って座った。 「とりあえず、冷めちゃったけど、食べちゃおう」 「あ、はい」     頷いて、またフォークを手にする。 「――今ので、いろいろ進むんですか?」 「進むと思うよ。優秀だから」  ……まあ何となく、分かる。  無駄がないというか。そんな感じがした。 「すごいですね」 「そう? ――凛太も。すごいよ」 「?」 「拓真が、すぐ納得してくれた。――あいつが一番、契約結婚とか、バツイチとか拘りそうだなーと思ったのに。色々考えて、文句を飲み込んだのは、君が言ってくれた言葉だと思う」 「……そうですか……?」 「うん。そう。――ありがとうね」  瑛士さんはそんな風に言って、クスクス笑った。 「楠 京也さんはね、オレの先輩なんだけど――すごく有能な人なの。あの人に秘書になってもらってから、オレは自分の時間が取れるようになったんだよね。もう一人、有村拓真は、高校大学が一緒だったの。ちょっと失礼でしょ、あいつ。……ほらさっきもさ、結構賢い、とか。なめてた、とか言っちゃうしさ」 「……そう言われてみたらそうですけど……あんまり気にしてませんでした」 「凛太が気にならないなら良かった。気になる奴は気になるから――まあ色々あったけど、なんかオレがよく仲裁してたのに、今は弁護士とかね。おかしいんだけどさ。なかなか難しい奴かも、だけど――」  瑛士さんは、クスクス笑う。 「いい奴だからさ。困ったことあったら、頼りになるよ。京也さんもね」  オレは自然と微笑んで、分かりました、と頷いた。  その後はゆっくり、おいしい食事を食べた後、瑛士さんが住むというマンションについていくことになった。

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