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14.無理……!

 そういえば会った時、この近くにあるって言ってなあと思ってついていくと。  瑛士さんのマンションは、駅の近くにある、一番大きくそびえたつマンションだった。 「うわー……たっかい……」  真下に立つと、首が痛いくらい。 「行こ」  ぽんと、背中を押される。隣に並ぶと、ほんと、背が高いな。 「瑛士さんも高いですね」  見上げながら言うと、「オレとマンション、同列で話してる?」と笑われる。  エントランスに入ると。なんかもう既に、日常からはみ出た感がある。  大理石なのかな。良く分かんないけど、白くてピカピカした床。見上げると、シャンデリア。  天井が高くて、圧倒されながら、壁に目を向けると、全然分かんないけど、なんか高そうな絵が飾られている。ホテルのフロントみたいなところにいる人達が、微笑んでいる。 「……ホテルみたいですね」 「んん。マンションだけど、受付にいつも人は居るよ。荷物とか、預かってくれてるし、あと、急なヒートの時とか、避難部屋もあるからね。あの人達はβだから、ちゃんと助けてくれるから」 「はぁ……」  抜けたような声が出てしまいながら、きょろきょろ、見回してしまう。  中に入るまでは、ただ、大きなマンションだと思う程度だったのだけれど。一足入っただけで、なんか、すごい別世界。キラキラしてる。 「すごく綺麗ですね、ここ」 「気に入った?」 「気に入ったっていうか……すごいです」  何だか、ちょっと背筋が伸びる。  ……オレ、ここに、住むの?? なんかちょっと――不相応な……?  エレベーターに入ると、瑛士さんがカードを上の方に当てた。すると、すぅと静かに上昇していく。なんか、緊張する。すっごく大きな綺麗な鏡があって、自分と、瑛士さんの後ろ姿が映ってる。  なんかオレ、びっくりした顔、してる……。 「――そのカードを当てると、その階にしか止まらないんですか?」 「そう。凛太にも渡すからね?」  一応頷くけど。なんだか豪華すぎて、圧倒されてる気持ちと。  オレ、ココに住むの? と言う気持ちと。  なんかマンションの譲渡とか言ってたけど、こんなマンションの部屋、譲渡されるとか……ありえないのでは、という気持ちで、すごくそわそわしている。  父のマンションも、それなりに高いのだと思うし、今までそこに居た時は、こんな豪華すぎるマンションに住まわされなくてもいいのに、とか思っていたくらいで。もし家賃を払うとしたら、一月いくら分、掛かってるんだろう、なんか嫌だなあとか、思っていたのだけれど。  なんか、瑛士さんのここは、全然次元が違う……。  ぽん、という可愛くて心地いい音が響いて、ドアが静かに開いた。……到着音までなんか良い感じ……。なにこれ。と思いながら、エレベーターを降りる。広い廊下。  この階、全部瑛士さんの為にあるのか……。うーん。ちょっとくらくらする。 「オレの部屋はそっちなんだけど――そっちは、後で見せてあげるね。まずは凛太の部屋」  言いながら、瑛士さんはドアの前のボタンを押している。「暗証番号もあとで好きなのにしていいから」と笑うけど、もはや頷けない。  ドアを開けてくれて、どうぞと微笑む瑛士さん。中に足を踏み入れると、めちゃくちゃ広い玄関が。 「何十人かお客さん、来れますね」 「そんなには入れないかな。どうだろ……」 「とりあえず靴は置けますよね??」 「うーん……二十人くらいかな?」  瑛士さんがクスクス笑う。もっと入れそう……と思いながら、靴を揃えて、スリッパを借りて中に入る。  廊下の奥、広い部屋が見える。リビングだと思われるところに、瑛士さんが進んでいくので、ついていって、ドアを開けると。 「うわ。ひろ……」  床から天井までの大きな窓。明るい部屋。ちゃんと家具や電気製品も、揃っていた。 「ここに居る時もあるんですか……?」 「いや、居ないかな。オレの部屋、向こうだから。まあでも、せっかく買ったし。とりあえず、普通に住めるようにしといてもらったんだけど……誰か、友達が泊まるとか、パーティーとかはこっちでしようかなと思ってたけど、忙しくてあんまり。まあでも、今回役に立ったね」  凛太にこのまま渡せるし、と笑う瑛士さんに、そろそろやっぱり無理だと思った。 「――……瑛士さん」 「ん?」 「あの、オレ、このマンションの部屋、貰うとか、無理です」 「えっ?」 「予想してたより凄すぎて、怖いです」 「怖い??」 「はい。マンションの話が出た時から、見てから考えようって思ってましたけど……」 「――――」  瑛士さんが、すっごく固まっている。  ええ、なんで? こんなマンション、ほいほい譲渡とか言っちゃうほうが、やっぱりどうかしてると思うのだけど。そんな固まらなくても……。  置いてある家具とかだけだって、なんかめちゃくちゃ高そうだもん……!   なんかつやつやしてるしー。  そういうのに興味なくて、分かんないけど、でも分かんなくても高そうって思う感じは、多分、やばいのだと思う。

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