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16.好きな子

 一通り、部屋を見て回った。  キッチン、リビングと、寝室、あと二部屋。部屋数としては、普通なんだけど……広過ぎて、一人で暮らすの、もったいなさすぎるなと思う。 「お掃除も、大変そうですね」 「普段はロボット掃除機回しといて。週一で、掃除のサービス頼むから」 「なるほど……」  お風呂もめちゃくちゃ明るくて綺麗。これは入るの楽しみかも……。 「凛太、コーヒー好き?」 「はい」 「オレの部屋でコーヒー飲も。淹れるから」 「はーい」  誘われるまま、今度は、瑛士さんの部屋に行く。  もっと玄関が広い。……玄関だけで普通の人の家の、一部屋ありそう。 「とりあえず座って?」 「はい」  リビングの広さと明るさにまたもや圧倒されながら、すごく良い質感のテーブルについた。瑛士さんはコーヒーの準備をしながら、ふとオレを見つめる。 「確認なんだけど、凛太、本当にそういう相手、いない? 結婚のこと、言いにくい微妙な相手とか?」 「居ません。心配ないですよ。学部に女子は居て、話したりはしますけど……オレ、βってことになってるし、無害な感じの友達ポジションにいます」 「……なるほど。αは周りに居ないの?」 「居るんですけど。オレがΩとは気付いてないですね……ていうか、瑛士さんて、オレがΩって感じますか?」 「――」  今のところは、感じないけど、と瑛士さんは苦笑する。 「でも、ヒートの時とかは分かるんじゃないかな……?」 「オレ、そういう欲も、あんまり無くて。不定期に来る三日くらいのヒートの時は、バグってますけど……それはもう本能というか、オレのせいじゃないと思ってるので」 「――今度その話もしようね。抑制剤、いいのあるから、楽になると思うし」  ……多分、すごく高い薬だろうなぁ。と思いながら。 「瑛士さんのフェロモンて……普通のΩは、分かるんですか?」 「――」  瑛士さんは、少し黙って、クスクス笑った。 「もう、全然感じないってことだよね?」 「……そう、ですね。分かんないです」 「んー。そうだね、オレは抑制剤を飲んで押さえてるけど……それでも、Ωの子には好かれちゃうかも」 「あ、でも、瑛士さんの場合は、オメガじゃなくても関係無さそうですよね」  モテそう。男女も、バース性も、そういうの何も関係なしに。 「瑛士さんは、そういうの、強そうですよね。αって、ランクがあがるごとに、どんどんフェロモンも欲も、強くなってくって、聞いたことがあります」 「それも、本能だから、オレのせいじゃないけど――まあ確かに強いかな」 言った言葉を返されて、クスッと笑ってしまう。 「そこらへんの欲の解消は、お互い自由でも、いい?」  そう聞かれて、うんうん、と頷いた。 「その内、凛太に好きな人が出来て、番いたいと思う人がいたら連れてきて。信用できる人なら、事情を話して、善処する」 「――うーん。オレより、瑛士さんの方にありそうですけど」  ふふ、と笑ってしまう。 「この三年、オレの方には無いと思う。そもそもそのために契約してもらうんだし」 「……そっか」  頷くと、瑛士さんはクスクス笑った。 「オレもさ。もっと若い頃はまあ、遊んでもいたんだけど、もう関係は落ち着いててさ。色んな状況考えて、お互い、割り切った関係が持てる人としか会ってないんだよね。ここんとこ忙しかったし、眠れなかったのもあって、なんだかんだご無沙汰だし――ていうか、凛太は、そういうの、これからかもね?」 「オレは……どうでしょう。でもほんとに今まで好きな人も居ないし、もしかしたらそこらへんの色々、オレは持たないで生まれてきたのかも……」 「おーい……」  呆れたように笑う瑛士さん。ちょっと困り顔な気もする。 「でも、いいんです。オレは医者になって、夢を叶えたいので、そういうのに気を取られるなっていうことかもしれませんし」 「おーいってば……」  オレは至って真剣なのだが、瑛士さんは、呆れたように苦笑していて、ぽんぽん、と頭を撫でられる。 「あのね、こういうこと頼んでるオレが言うのもあれだけど……」 「?」 「愛する人が居るのは、人生で、良いことかもしれないよ?」 「――」 「まあまだ、オレも出会えてないけどさ。でもほら、好きな子とか居ると、楽しいでしょ」 「――」  好きな子か。……実はあんまり、居たことがない。もちろん友達として好きな人は居るけど、なんかこう世で聞くドキドキするような気持ちを、まだ、味わったことがない。  なんかそれを言うと、心配されそうな気がして、オレは、ただ、はい、と頷いた。

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