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20.約束してる訳じゃないんだけど。
「その偉いじいちゃんさ、写真見たら、オレ、見たことあった」
「え、そうなの?」
「どっかのパーティーで見かけたって感じ」
「喋ったこと、ある?」
そう聞くと、すぐに首を横に振る。
「ガキのオレが、あんなグループの偉そうな人と話す機会はねーかな」
「なるほど……」
「なんていうか――気さくな感じだけど、すげーオーラ。αでしかないって感じ」
「……まあ竜もそうだけどね。あ、瑛士さんもそう。オーラみたいなの。……まあでもフェロモンは感じないんだけど」
「まあそれは前からだし。――つか、そのじいちゃんに、反対されたらどうすんの」
「――さあ……??」
どうするんでしょ?? と苦笑したら、竜は、なんだそれ、と笑う。
「そこに反対されたら、無しなんじゃないかなあ。瑛士さんに任せるよ。ダメだったら、それまでだと思うし。本当のこと話すって選択肢もあるのかなあ……? 分かんないや。そこは瑛士さんが考えるんじゃない?」
「――だとしても、変な店いくこと考えたら、ぶん殴る」
じろ、と睨まれて、「あ。はい」と、ぴしっと座り直す。
そうだった。……契約結婚の話よりも怒られたのは、そういう店の前で悩んでた話をしてしまったからだった。
……めっちゃ怒られた。
医者になるんだろ、そんなのやってバレたらどーなると思ってんだ、って。
たしかに。そりゃそうだ。当たり前だよね。そんなの。
なんかあの時、オレ、疲れすぎてて、バイトと講義と実習と睡眠不足と、栄養も偏ってた気がするし。なんかちょっと全然、頭が働いてなくて、なんかふらふら~と……みたいな言い訳を言ったら、もう本当にめちゃくちゃ怒られたのだった。
まあでもさ。一応は考えたんだよ。
……オレが医者になるためなら。別になにで稼ごうと関係ないって。父にも頼りたくなかったし。そこら辺は本気だったけど。でも竜に言われて、確かにあとになってそういうことしてたのがバレたら面倒くさかったかも、とは思った。――覚悟の上でちょっと考えてたって言ったらもっと怒られそうだし、心配させそうだから、あまり深くは言わなかった。
「今度そういう状況になったら、無担保無利子で、いくらでも貸してやるから」
「貸すの? くれるんじゃなくて?」
クスクス笑いながら聞くと。
「お前、貰わないだろ」
「……ですね」
良く分かってる。クスクス笑ってると。
「まあ別に今そうしてもいいけど。そんなに父親が嫌でその金使いたくないなら、早く言えばいいのに」
「――竜にお金出してもらうって、それはおかしいような気が……」
「瑛士さん、に出してもらうのはいい訳?」
「いいっていうか……瑛士さんは、利害が一致しての契約、だから。竜にお金借りるよりは、意味がちゃんとしてるというか」
「ふうん……まあ。今のまま、嫌なことがねーならいいけど。つか、あほなことは二度と考えんなよ」
「うん。なんかちょっとあの時は、どうかしてた。もう考えないし、いざどうしようもなくなったら、頼るよ。竜」
そう言うと、竜はオレを少し見つめてから目を逸らし、「ん」とだけ、頷いた。
……ちょっと照れたかな?
分かりにくいけど、こんな感じのとこもあり。優しいとこもあるαなので。竜は、仲良しだ。
「ああ、その瑛士さんも、ネットで見たぞ、写真」
「あ、どうだった?」
「――顔、整いすぎてて怖いな? 整形?」
「……してないんじゃないかなあ……分かんないけど。そんなの思うほどってこと?」
「お前に話聞いた時、モテすぎて支障が出るとか、何ほざいてんだと思ったけど――んー」
「納得した?」
「……ちょっとはな」
「竜も、もっとにこってしてあげたら、すごいモテると思うんだけどね」
「……にこってしてるだろ」
「……してるつもりなの?」
あの、ニヤっていうのは、ニコ、のつもりだったりするのか??
それは言わずに、自然と首を傾げて竜を見つめてしまうと、また、苦笑する。
「まあ……竜は、それでいいと思う。カッコいいしな」
「そーか?」
「うん。――あ、そうだ。なあなあ、昨日のさ、|内海《うつみ》教授の検査結果さぁ……」
「ん」
「考えられる病気を可能性高い順に、十個まであげて来いってやつ。やった?」
「まだ途中」
「放課後、図書館行かない? もー難しいよねぇ……」
「いーよ。じゃあ図書館で」
「うん」
ふ、と息をつきながら、頷くと、コーヒーを飲み干した竜が、あとでな、と立ち去って行った。
短い休憩だなーと思って見送りながら、あ、と気づいた。
――今日は瑛士さんにご飯作ってあげられないから、連絡しとこうかなぁ。
別に約束してる訳じゃないんだけど。
なんか、いつも来るから。
その旨送って少し待つけど、既読はつかない。
忙しいって言ってるもんな、とスマホをポケットにしまった。
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