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23.みそ汁
朝以来。
オレを見て笑う瑛士さんの顔は、やっぱり強烈というか。
紫の瞳が、綺麗すぎる。じっと見つめてしまう。その目が、にっこりと優しく笑う。
人の外見にそんなにこだわりのないオレでも、見惚れてしまう。
造形がね。整いすぎてて。
美術品、綺麗だと眺めちゃう、あれだよね、きっと。
竜ってば整形? とか言ってたけど、こんなに綺麗になるなら、その美容整形、大繁盛だろうなあ……ていうか、この人は違うだろうけど。ていうか、この強烈な紫の瞳は、絶対作れない。
「凛太、勉強頑張ってきた? いつ帰ったの?」
「さっきですね。シャワー浴びたところです」
上がった瑛士さんにぽんぽんと肩を抱かれながら、リビングに連れていかれる。オレの肩、ちょうど高さ的に、手を置きやすいに違いない。よく、のせられている。
「あれ、いい匂いがする――みそ汁?」
「良く分かりますね」
「だしの匂いするから」
得意げな瑛士さんに、笑ってしまう。
「あ、そうだ。これ、あげる」
「なんですか?」
瑛士さんから紙袋を受け取って、中を見ると、透明のパックの中に、色々な具のおにぎりが入っていた。
「え、なんですか? おにぎり?」
「夜食べてなかったら食べるかなーと。朝ごはんにしてもいいよ。おにぎり好きって言ってたでしょ」
「――わー。オレ、おにぎり作ろうかなーって思ってて」
「おにぎり作っちゃった?」
「もう疲れてたので、みそ汁だけ飲んで寝ようかと」
「そっか。じゃあ食べる?」
「食べたいです」
そう言うと、瑛士さんは、なんだかとても嬉しそうに、瞳を細めた。よしよし、と頭を撫でられる。
――瑛士さんて、オレをいくつだと思ってるのか。なんか、良く撫でられるのだけれど。
「ダメだよ、食事抜いちゃ。二十歳の男の子はもっと食べなきゃ」
「あ、はい。気を付けます」
身長差が結構あるからか、子供みたいに思ってる気がする。お母さんみたいなセリフだな。
背中をポンポンされて、返事をすると、ん、と頷く瑛士さん。
「あっためた方がおいしいと思うよ」
「はい」
「残ったら朝、食べてね」
「はい」
わー、なんか思いがけずの豪華なおにぎり。ふたつ選んで、嬉しいなと思いながら、レンジをスタート。
「凛太、みそ汁って、まだある?」
「まだある……? あ、飲みたいですか?」
「うん。飲みたい。二人の分もある?」
中に入ってきてから、瑛士さんとオレのやり取りを見てた二人は、顔を見合わせて、ふ、と笑った。
「少し多めに作ったからありますけど……皆さんは、ごはんは食べたんですか?」
そう聞くと、「さっき隣でそのおにぎり、食べてた」と笑う有村さんと、頷いて微笑む楠さん。
「今日夕方から一緒に居たんだけど、凛太のおにぎり買うからって店に行って、結局オレらもそれになった」
「まあ家で話そうって言ってたから、もともと何か買うことにしてたんだけどね」
瑛士さんもそう言って、笑ってる。
「あ、そうなんですね……え。と。――みそ汁、飲みますか?」
首を傾げてると、二人はクスクス笑い出した。
「おにぎり食べながら、凛太のみそ汁が飲みたいなぁって言ってたから。そんなにうまいの? って話になってたんだよな。――貰っていい?」
「僕も、頂きます」
そう言われて、ちらっと瑛士さんを見上げてしまう。
そんなこと言っててくれたのかと思うと、ちょっと嬉しいけど、大分ハードルが大分上がってる気がする。
「普通のみそ汁なので、そんなに期待しないで普通に飲んでくださいね」
そう言って、二人が笑いながら頷くのを見てから、オレはコンロに火を掛けた。
オレがお椀によそってテーブルに持っていくと、三人がなぜかみそ汁だけ飲んでいるという不思議な光景。おにぎりをレンジから出しながら、クスクス笑ってしまうと、ん? と瑛士さんが笑う。
「みそ汁だけを皆で飲むって、なんかおかしいですね」
そう言うと、三人、ふ、と微笑む。
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