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24.モヤモヤ

 ――瑛士さんに話しかけられなかったら、絶対話すこともなかっただろう人達と、こんな豪華すぎるマンションで、なぜか四人でこんな時間に、みそ汁タイム。……と、オレだけ、おにぎりも。  へんな空間だー。と思いながら、おにぎりを食べ始めると。 「わー、めちゃくちゃおいしいです」 「うん。具が豪華だよね」 「はい。おいしー」 「凛太のおにぎりもおいしいけどね」 「……比べないでもらっていいですか」 「比べてないし。というか、比べたって、凛太のおいしいけど」  そんなことはないと思うのだけれど、と、少し黙って食べていると、有村さんが笑った。 「ちなみにそこらへん、いっこ七百円以上してた」 「ええっっ」  目が点になってしまう。 「そんな値段のおにぎり初めて食べます……ていうか、ちっちゃいし……てことは、もう、普通に食べてるおにぎりの何倍の値段なんでしょうね」  んー、と考え始めたら、「考えなくていいよ」と笑いながら瑛士さんがオレの頭をポンポンした。  有村さんが、なんだか眉を顰めてこっちを見て、固まってるのを見て、隣の楠さんが、ぷ、と吹き出した。 「――お気に入りなんですよ、かなり」 「……聞いてたけど」  そんな会話。首を傾げていると、瑛士さんが、「みそ汁、どう? うまいよな?」と二人に向けて言った。二人はにっこり笑って、頷いてくれる。 「おいしいですよ」 「うまい。――あれか。オレのみそ汁を毎日作ってくれ、みたいなプロポーズでもしたのか」  有村さんのセリフに、オレと瑛士さんは顔を見合わせて。  ぷ、と笑ってしまった。 「してないですよね」 「してないな。ていうか、プロポーズしてないから。契約だって言ったろ」  有村さんは、ふーん、と頷いてから、お椀をテーブルに置いた。 「ごちそうさま。うまかったよ。瑛士が抜け出して食べに行くのも分かる」  面白そうな顔で笑われて、ふふ、と苦笑してしまう。 「京也さんが愚痴ってたから。昨日まで、ちょっと目を離すと居なくなってたって。今日は断られたみたいって」 「断られたっていうか、別に毎日作ってとは頼んでないし。わざわざ連絡くれなくて良かったんだけど――凛太、ごめんね?」 「あ、いえ……」  ――確かに、そうなんだけど。    頼まれてもないし。  作らなくても良いのだろうとも、思ってるし。  気にしなくていいっていう瑛士さんからの連絡に、ホッとしたし。  瑛士さんだって、いちいち来るの大変そうだし。  ――そうなんだけど。なんだろ。  なんか少しだけ、モヤモヤして、そのまま、何も言わずに、おにぎりを食べる。  作ったものを、おいしいって食べてくれる人。  母さん以外では、初めてだから。  つい、作れなくてごめんなさい、て送ってしまったんだ。  ――別に、それもいらなかったかな、と思うと。  無くてもいいっていうのが――……少し、寂しいのかもしれない。  …………何、考えてんだろ。一週間前に会った人に。 「オレも、勉強忙しいので――いつもはもっと、帰りも遅いので」 「うん。分かってるよ。朝も忙しいなら、来ないからね。気にしないで」  一瞬だけ、止まった心の動き。  あれれ……。なんだろ。いや。返事、しないと。   「――そう、ですね。オレ、明日は少し早いので」 「ん、分かった。じゃあ、朝は、おにぎり食べてってね」 「はい」  その会話はそこで終わって、オレは、食事を続ける。その横で、三人が何かを話してるけど、オレには関係ない話っぽいので、黙ったまま、ぼんやりと。    ――――うん。これで。まあ。  普通、だよね。  ずっと一緒に食べてたこの一週間が、変だったんだし。  うん。毎日作るとか。……朝はともかく夜は、帰ってこれないこともたくさんあるだろうし。   「――ごちそうさまでした。ちょっと片付けちゃいますね」  お椀を持とうとすると、瑛士さんも立ち上がって、一緒に運んでくれる。 「一緒に片付けるよ」 「――はい」  二人で並んで流しに。  食洗器がついてるけど、これっぼっちなら、手で洗った方が早い。  何回か、楠さんが迎えに来ずに最後まで一緒だった時は、毎回瑛士さんが手伝ってくれた。  お金持ちのエリートαさんなのに、と聞いたら。  一人暮らしが長いから、こういうのは自分でやる癖がついてるんだとか。なるほど。と思った。そうだ、料理もする人だもんね。片付いて、「お茶とかいれますか?」と聞くと、瑛士さんは「今おいしいみそ汁飲んだばかりだし」と笑いながらテーブルについて、オレを手招きした。 「とりあえず座って? 話したらすぐ帰るから、早く寝てほしいし」 「あ、はい」  そっか、用事があるから、二人も来てるんだもんね。  オレは、瑛士さんの隣に再び腰かけて、前に座ってる二人が、色々出してくる書類に視線を落とした。

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