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30.宝物発見
――静か……。
不意に覚醒。あたりはすごく静か。まだ目が開かない。でもまぶたに感じる光は、朝っぽい。あれ、今、なんの時だっけ……学校は…………あれ。土曜だよね。休みか。
だるい……。
あ、そっか。昨日、飲み会だったんだ。
……あれ、もしかしてオレ。教授のお祝い会で――寝た……? いや、もしかしなくても寝たな。……うーん……何してんだ、オレ。
――その瞬間、昨日のことを思い出した。
あ、そっか。皆に話して、ああなったから、飲んじゃったんだな。……うん、仕方ない。月曜、教授には謝ろう。そこでようやく目を開けた。
どうやって、ここに帰ってきたんだろう。全然覚えてない。
うーん、と何気なく横に目を向けた瞬間、ギクリと、体が竦んだ。
「――」
隣に、誰か寝てる。
……肌色が見える。視界には、どう見ても女の子じゃない、男の胸が広がっている。広がっているっていうのはおかしいか。近すぎから、胸しか見えないんだ。上を向けば、顔は見えると思うけど、怖くて見れない。
…………え、オレ。瑛士さんから借りてるマンションに、誰か連れ込んで……?
ドキドキしながら、下の方を見ると、オレはなんと、下着しか身に着けてなくて。
なんだかもう宇宙の中にぽーんと放られて、ぐるぐると落ちていくような感覚にとらわれる。
嘘だろ。
――どうしよう。
結婚前に浮気したΩなんて、契約結婚ですらありえないでしょ。
こんなかたちで、瑛士さんを裏切る、とか……。
つか、相手、誰……!!!
オレは、覚悟を決めて、がばっと起き上がった。
そこに、見えた顔は。
「え……いじさ……」
オレは、シーツに両手をついて、はー、と息をついた。
朝の光が眩しい、静かな部屋の中で。瑛士さんは、オレの隣で、静かに眠っていた。
瑛士さんは、ワイシャツの前を開けてて、下は下着だけ、みたいだった。
長い睫毛。目を伏せているとすごく目立つ。綺麗な鼻筋。
柔らかそうな唇は、すこしだけ開いてる。白い光の中で、肌、透き通るみたいに、綺麗に見える。
シャツの隙間から見える胸の筋肉も、なんだか、完璧にデザインされてるみたいで。
しばし、ぼーーーーー、と眺めてしまった。
こんな綺麗な人、本当に居るんだ。
ふと、自分の裸を見て、うーん、と考える。
細いな。
ただ細い。
オレ、筋肉ってどこにあるのかしら。
ちょっと筋トレ、した方がいいかな。
なんなの、この、超整った筋肉。
鎖骨のラインがめちゃくちゃ綺麗。肩に向かってスッと伸びてて、胸の筋肉も、鍛えすぎてる感じがなくて、でもすごく整ってるし。この立体感はどうやって鍛えたら出るのかなあ……これ、適度に鍛えないと絶対出ないよね。
腹筋の形も――え、なにこれ。最高なのでは。引き締まってるけど、バキバキに固いとかじゃなくて、腹直筋と腹斜筋と腹横筋の鍛え方が完璧……縦のライン、超綺麗。
ていうか、無駄なお肉が全くなくて、必要な筋肉はちゃんとついてて。
わー、もう最高に綺麗。写真撮らせてくれないかな。
なんか見てると、ドキドキしてくるくらい、美しいって、こういうこと、言うんだよ絶対!
横向きで寝てても、肩幅が良い感じ。スーツ着てるとカッコいいもんなぁ、瑛士さん。腕も長くて、指先は力が抜けてシーツに触れてる。呼吸に合わせて上下する胸元がもう、なんというか、もう――とにかく、完璧!
男が寝てるとなった時は、死ぬほど焦ったけど、相手が瑛士さんなら。
何かしらがあって、オレはここに帰ってきて、で、瑛士さんはオレを訪ねたか何かして、そのまま寝てるオレの横で寝ちゃったのかなっていう感じになり。
オレこの感じだとシャワーとか浴びてないし、汚いから脱がせてくれて、瑛士さんも、そうなんだろうなぁと。
おちついて考えてみれば、オレ、全然何もされた感覚無いし、きっと何も無かったに違いない。うんうん。良かった。
もうそうなったら、目の前の奇跡みたいな人体への興味しかない。
なに、この完璧な……見本として、研究室に持っていきたい。
筋トレで目指すのは、この体で良いんじゃないかな。
わー、最高。
なんかドキドキしながら見ていると、「ん……?」とゆっくりと瑛士さんが動いた。
ますますドキ!
少し目元に手を当てながら、瑛士さんが目を開けて、オレを見つけた。
――朝日の中で見る、紫の瞳。プラス、この体とともに。
なんなの、これ。綺麗すぎて、泣きそう。
「――えーと……」
瑛士さんは、ゆっくり起き上がって、オレを見つめてから、口元を押さえて、ふ、と微笑んだ。
「昨日のこと、覚えてる?」
「……いえ、全然」
「――ん、じゃあ説明するけど……それより」
瑛士さんの手が、オレの頬に触れて。じっと見つめ合う。
ひゃーー。なに? 起き上がると余計、シャツから見える胸筋と腹筋が綺麗すぎて……。
「なんでそんな、宝物でも見つけたみたいな顔、してるのか、教えて?」
ぷぷ、と笑いながら、瑛士さんが、言う。
確かに。
これは、結構なお宝だと、咄嗟に思ってしまった。
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