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31.眩しい
とりあえず下に落とされていたシャツにそでを通して、パンツだけという格好からは脱却してから、オレは、瑛士さんを見つめた。すごい、わくわくした顔で、オレの言葉を待ってる、ような気がする。
「えっと、ですね……ある意味、宝物かも、なんですけど」
「ん」
「……瑛士さんの筋肉が理想的すぎて、びっくりしてました」
「――」
オレの頬に触れたまま、ゆうに数秒、見つめ合った後。瑛士さんは、ぷは、と笑い出した。頬から手が離れて。ちょっとほっとする。緊張するから、あんまり触らないでほしかったりする。
「なに、理想的って」
めちゃくちゃ笑ってて、涙目になりながら、そんな風に聞かれる。
「あの……鍛えすぎて固すぎるとかじゃなくて、なんか……すごく綺麗で。筋トレするなら、瑛士さんを目指したらいいんじゃないかなって……」
「ぷぷ。ありがと」
まだめちゃくちゃ笑いながら、ぽふ、とオレの頭に手を置いて、ぐりぐり撫でてくる。しばらくして、そっかー、と言いながら、オレの肩にポン、と手を置く。
「凛太はちょっと細すぎるかも。節約してるって言ってたよね」
「まあ、そうですね」
うんうん頷くと、瑛士さんは、んー、と考えた素振りで。
「食費として別に渡すから、それ使い切る感じで食べて。まずもう少し太った方がいいよ」
「……まあ、確かにオレ、標準体重割ってて、教授たちにも、痩せすぎも健康に悪いって言われてて……うーん。でもどうしても一人だとぱぱっと」
「おにぎり?」
「はい――あ。そうだ、それより瑛士さん、あの。オレって昨日、どうやってここに来たか知ってますか?」
「ああ、うん。知ってる」
瑛士さんはおかしそうに瞳を細めて微笑む。
「何がどうなったか、聞いてもいいですか? そっちが気になって」
「ん。いいよ」
クスクス笑って、瑛士さんが話し始める。
「昨日、オレ、凛太に連絡したでしょ。今家? って」
「……はい。あ、まだ外って送りましたよね」
「そう。でね、少しして、オレ、電話したんだよ。学校なら迎えに行こうかと思って。ご飯食べたか聞きたかったし」
学校までわざわざ迎えに? ……ご飯も?
聞きたいことはあったけど、先が知りたくて、飲み込んだ。
「そしたら、竜くんて子が電話に出て――凛太は今寝てるんですがって。瑛士さんてお名前だけは聞いてるので出ました、っていう訳」
「はい……」
「飲んで寝ちゃったんで、もし、良かったら、迎えに来てもらえませんかって。場所聞いたら近かったし、寝ちゃったなら車出して迎えにいこうと思って、行くよって答えたらさ。出来たら、適度にオシャレしてきて下さい。スーツとかがいいかも、て言われて」
「……?」
竜……??
「よく分からなかったけど、まあオレ仕事帰りだったし、言われた通りスーツで、気合いれてオシャレして、行ったんだよね」
「……なんかすみません」
良く分からないけど、お手間かけて、と思ってそう言うと、瑛士さんはクスクス笑って「行って良かったよ」と笑う。
……行って良かった? どういう意味なのか、いまいち分からない会話が続く。
「お店に入って店員さんに、中にいるのでって言って探してたら、少し騒がしい団体が居てさ。そこかなと思って近づいたらさ。声が聞こえてきて――」
「はい……?」
「Ωなんて信じられない、とか。αと結婚? まあαにもピンキリあるよなーとか。マジでΩなのかな? 今まで一回も何も感じてない、あいつ、別にそんな学校休んでないよな。ヒートとかもない? あぁ、欠陥品なのかもな。そんなのと結婚するαなんていんの? みたいな――なんかすっごいムカつく感じの会話が聞こえてきて。まあ多分、凛太が発表したんだろうなって思ったんだけど。ちょっと許せなくなったので」
「……許せなく?」
ああ、αがピンキリとか言われてるし…キリじゃないもんね。ピンの方のトップだもんね。うんうん、そりゃそうだ、許せないよね、あそこに居る程度のαたちに、知らないとはいえ……と、めちゃくちゃ納得しかけたところで。むぅ、と瑛士さんが眉を寄せて、口を膨らませた。
「だって、オレの可愛い凛太、欠陥品とか。許せないでしょ」
「――」
オレのって。可愛い凛太って。
……オレ、まあまあ自分でも、「欠陥品」って奴だろうなとは認識あるし、まあそれで楽だったっていうのがあるから、気にしないし。全然良いんだけど。
それを聞いた瑛士さんが。
……オレのことの方で、許せないとか、言ってくれると。
――なんか、瑛士さんて、眩しいなぁ。と、改めて、思ったりする。
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