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33.つり合い

 しばらく考えていた瑛士さんは、ふに、とオレの頬に触れた。 「……まあでも……竜くんのおかげで、教授とか周りの人にも挨拶できたし。良かったけど」 「はい。ありがとうございました。ほんとかなあって思われてるっぽかったので、姿を見せてもらえて、助かったかも……」  そこまで言ってから、ふと。 「でもあれですよね。瑛士さんみたいなαとオレ、なんて、ますます疑われるってパターンもありそうですよね」 「どうして?」 「え、だって……釣り合わないですよね、どう考えても」  どうしてって、聞くまでもないくらい、釣り合わないと思うのだけどな。  首を傾げたオレに、瑛士さんは、そんなことないでしょ、と笑いながら、オレの頬をぷにぷにとつまんで、離した。 「つりあわないなんて、無いよ。本人同士が良ければいいんだから」 「――瑛士さんみたいに言う人は、むしろ珍しいと思いますけど」 「そう?」  ちょっと面白く無さそうに、口を閉じた瑛士さん。 「でも、オレ、瑛士さん、好きですよ。言うこと珍しいなーって思うこと多いんですけど。いいなあって思います」  ふふ、と笑ってそう言ったら、瑛士さんは、しばらくオレを見つめてから。 「こっちのセリフ、だけどね」 「え……オレ珍しいこと言ってますか?」  何か言ったっけ? 「――ん。まあいいや。そう、それで、車で連れて帰ってきて、シャワー浴びるのは無理そうだったから、とりあえず、服だけ脱がして、布団に入れて――」 「それで、なんで、瑛士さんも、ここに寝てたんですか?」 「――」  そう聞いた瞬間。  瑛士さんは、なんだか、すごく、ふわ、と優しい顔をした。  ――?? 「ううん。なんだか――すごく、眠くなってさ」  くす、と笑って、そう言う瑛士さん。 「びっくりしたよね、ごめんね。――なんか、自分でも、こんなに眠れたの、久しぶりかも」 「そうなんですか? 眠れて良かったですけど……あんまり無理しないでくださいね?」  そうだね、と瑛士さんが笑う。 「起きた時、どう思った?」    面白そうに聞かれて、んー、と考える。 「えーと……あ、最初は胸元しか見えなかったので、オレ、借りてるマンションに誰か連れ込んじゃったのかと思って……契約とはいえ、瑛士さんのこと裏切っちゃったと思いました」 「――」 「相手次第では、もう結婚とか無理だろうなって思って、もうほんと、どうしようかと……」 「そんなこと思ってくれたの?」 「え、だって……瑛士さんと結婚したって発表した時、オレのことがネットに書かれたりしたら迷惑掛かるとかなんか、一瞬でばーーって、浮かんで」 「――そっか」 「良かったです。相手が瑛士さんって思った時は、もう、ホッとして」 「――焦んなかったの? オレと何かあったんじゃないかって」 「え、ないですよね。瑛士さんがオレにそんなことする訳ないし」   まっすぐ見つめてそう返したら。  顎に触れて、んー、と考えていた瑛士さんが悩んでる。 「……何、悩んでるんですか?」  はて。悩んでる姿も、綺麗でカッコよくてすごいなあ、と思いながら、見つめていると。 「あまりに男として見られてなくて、ちょっと――かつてない事態に混乱中」  何ですかそれ、と、あははーと笑ったら、瑛士さんは、本気なんだけど、と苦笑した。

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