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36.一緒のごはん

 そろそろ帰ろう、と思って片付けを始めた所で、スマホが震えた。 「もしもし」 『凛太?』 「瑛士さん?」 『学校終わった?』 「今帰り支度中です」 『ご飯食べにいかない? 朝のお返し』 「――瑛士さん、お仕事は?」 『終わりにした。大学の裏に駐車場があるみたい。分かる?』 「分かりますけど」 『今から迎えに行くよ』  「いいんですか?」 『うん。待ってて、すぐ行くから』  楽しそうな声が、途切れた。ふ、と顔が綻んでる自分に気付く。  片付けを終えて、鞄を持つと、駐車場に向かって歩き始めた。  ――いい天気。青い空は、雲一つない。  瑛士さんて、忙しくて大変だから、契約結婚したいって言ってたのに。見合いとか断るのも大変だし、かといって、本当の結婚は相手に構ってられないから、て言ってたのに。  オレとご飯とか、行ってる暇、あるんだろうか。なんか気を使ってくれてるのかなあ。  なんだか申し訳ない気がしてしまうから、一度言っておこうかな。  そもそも、瑛士さんに食べてもらってるご飯の食材って、瑛士さんのお金で買ってるものだし。お礼する必要、無いんだよね。と苦笑してしまう。しばらく待っていると。 「あ」  思わず声が漏れた。  うわあ……向こうから、白の、見るからに高そうなスポーツカーがやってくる。  あれだな、多分。オレ、車、まったく詳しくなくて、種類とかも、全然分からないし、車の会社を言われても、全然分かんないんだけど。そもそも今まで免許取ろうと思ったこともないし。  分かんなくても、分かる。絶対あれだー。すごく高そう……。と思って見ていた車が案の定、近づいてきて、目の前で止まった。 「凛太、お疲れ」 「瑛士さん――なんか車、すごいですね」 「すごい? まあいいや、乗って、助手席」 「お邪魔しまーす……」  何回も車は乗ったことはあるけど。とにかく、内装や、ハンドル周りの機械とか、とにかくいろいろ全然違う。 「車、瑛士さんぽいですね」  シートベルトをしながらそう言うと、瑛士さんは、そう? と笑う。 「ピカピカでつやつやしてて、瑛士さんぽい。なんかすごいですね」 「オレ、ピカピカでつやつやしてる?」 「あ、そういう意味じゃ……あ、でもしてるかな、ピカピカは。つやつやは良く分かんないですね」  笑いながら瑛士さんが車を走らせ始める。 「瑛士さんて、忙しいんですよね?」 「うん。死ぬほど?」 「……今ここにいて良いんですか?」 「午前中、わき目もふらず仕事してきた」 「楠さんにはちゃんと言ってきましたか?」    聞きながら、いつも呆れるように迎えに来る楠さんの顔を思い出して、クスクス笑ってしまう。 「言ってきたよ、凛太をご飯に連れて行ってくるって」 「オッケーくれました?」 「まあ一応。帰ったら仕事する」  ふふ、と笑ってしまう。 「あの、瑛士さんと食べてるごはんって、食材は瑛士さんから出てるので」 「ん?」 「お礼、とか、考えてくれなくて大丈夫ですよ?」  綺麗な横顔を見ながら、そう伝えると、瑛士さんはちらっとオレを見た。 「――んー……」  前を見て運転しながら、瑛士さんは頷いたけど。なんか唸っている。  なんだろ、と思いながら、何か言われるのを待っていると。 「材料だけではごはんにならないでしょ」 「――?」  一瞬良く分からなくて首を傾げていると。 「材料買ってきても、ちゃんと調理して、出来上がらないと、食べれないし。一人で食べても、美味しくないでしょ」 「――」 「凛太が作ってくれて、一緒に食べるの、楽しいんだよね。だから、そのお礼」 「――……瑛士さん、オレとご飯食べるの、楽しいんですか?」 「え、何その質問。楽しくないと思ってた?」 「あ、いえ……そういうんじゃないんですけど」 「けど?」  けど、なんだろう。えーと……。あ。分かった。 「瑛士さんとご飯食べて楽しい人は、きっとたくさん居ると思うし。あと、オレのご飯って、別に普通だと思うので……何というか……瑛士さんが、オレのとこに、わざわざ来るのが不思議だなあとは、思います」 「――」  母さんが亡くなってからは、ちゃんとした食事を作ることも減ってたし、一人でぱぱっと食べて終わらせてたから。誰かと家でご飯を食べるのは、久しぶりだったんだよね。オレ。  だからなのか、すごく楽しいなって思ってしまっていたけど。  なんか、これがずっと続くとは、思ってないし。ていうか、今がちょっと不思議なんだと思うし。  瑛士さんも、約束してる訳でもないからって言ってたしな。

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