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37.ほっこり。

 少し黙って考えていた瑛士さんが、ふと脇に目を走らせたと思うと、そのまま、道路脇に車を止めた。 「――凛太、ちょっと顔見て、話したいから」  まっすぐ見つめられる。わざわざ車をとめてまで、何を言いたいのか、なんだか少しドキドキする。 「ごめん。あのさ――」 「……?」 「オレね、おおげさに聞こえるかもしれないけど。本当に、そういう目で見られることが多いんだよね」 「――はい」  おおげさ、とは思わないけど。一目惚れされるタイプの人だと、思うし。 「ちょっとご飯いこう、とか。話してみようとか。こっちはそれくらいの気持ちの時から、すごく、誘われる、というか……資産があるのも、αのランクも、関わる人ほとんどが知っててさ」  小さく頷いて、話を聞く。瑛士さんは、少し眉を寄せて、ちょっと困ってるような表情。 「それは仕方ないんだけど――オレを好きっていうその人達が、本当にオレを好きなのか、条件が良いから好きなのか分かんないというか。昔は、好意をもたれるのは普通に嬉しくて、つきあったり、遊んでたりもあったんだけど――まあそういうのもちょっと落ち着いてくると、今度は色々難しいというか」 「――はい……」 「ご飯誘うのも、めんどくさくなるんだよね。特に今、忙しいから、本気になられても、構ってられないし」 「なるほど……」 「αの友人達は、そんな心配ないから誘うけど、αの奴らって、まあとにかくαだから。分かる? ホッとするとか、そういうのじゃ無いわけ。まあ気心しれた友人はいるけど、なんか違うんだよね」 「ふむふむ……」  なるほど、と頷いていると、瑛士さんは、ぷっと笑った。 「ふむふむって……」  クスクス笑って、オレを見つめてくる。 「なんか――君は、会った時から、ほっとするし。マンションとか、あげるって言ったら断られるし、怖いって言われるし……」 「――」 「この車もさ。ピカピカつやつやで終わらせるし」  あはは、と瑛士さんは笑う。 「それでもって、オレ、君が作るごはんが、すごく好きなんだよね」 「――それは、嬉しいですけど……」 「だからとにかく、なんかすごく、ほっとするし、可愛いし。楽しくてさ」  キラキラの笑顔で、そんなことを並べ立てる瑛士さん。 「ごめんね、オレ――契約結婚だから、そんなに無理して関わらなくてもいいとか言って、ものすごく絡んじゃってるけど――嫌?」 「――」 「嫌……だったら、少し、遠慮するけど……」  じっと、見つめてくる、キラキラの紫の瞳。  ――これ、嫌なんて言える人、この世に存在するのかな……。 「嫌、では、ないです」 「……凛太、オレといるの、少しは楽しい?」  少しはって……。 「少しじゃなくて――普通に楽しいですし、一緒にご飯食べるのも、好きですよ」 「――ほんとに?」  ほんとに? とか聞いてるけど。答える前から、瑛士さんは、めちゃくちゃ嬉しそう。そんな風に嬉しそうにされると、なんか。こっちも嬉しくて、なんだか胸のあたりがあったかくなる。 「瑛士さんは」 「ん?」 「ちょっと誘ったら勘違いされるって……なんかそれは、もうちょっと、キラキラを抑えるべきなんじゃないかと……」 「何それ」 「瑛士さんは何気なくしてることでも、相手の人からしたら、舞い上がっちゃうようなことなのかも……という、アドバイスです」 「アドバイス――」  瑛士さんはクッと笑い出して、オレの頭をポンポンと撫でると、ハンドルに手を掛けて、サイドブレーキを外した。 「ありがと。聞いとく――ごめんごめん、ごはん、食べに行こ」  そう言って、瑛士さんは運転を再開して、流れる音楽に合わせて歌を口ずさんだ。   しばらくして、ふ、と歌を止めてから。 「……あのさ」 「はい?」 「こないだ、約束してる訳じゃないし、オレに作ってくれなくていいみたいなこと、言っちゃったんだけどさ」 「――はい」  そう、言ってたよね。  ――だからオレ、作るの、やめたんだけど……。 「凛太が作れる時でいいから……連絡、くれない? 帰れる時は、帰るから。オレも、一緒に手伝うからさ」 「――――」 「一緒にごはん、食べたいなーと思って。あ、もちろん、作りたい気分の時だけでいいんだけど」 「……オレ、忙しいので」 「やっぱり、そう、だよね」  んー、と頷いて残念そうな顔を見てたら。 「たまにで、よければ」  そう言ったら、えっ、とこっちを見るので。「前向いてください」と焦ると、すぐに前を向いてから、瑛士さんは、「たまにで、いいよ」と嬉しそうに笑った。  ――なんかよく分からない関係だなあと思うのだけれど。  お互い、居心地がいいなら。  ほっこり、ごはん、一緒に食べれる人って。  よく考えたら、そんなに居ないのかも。なんて。思ったりした。

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