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38.瑛士さんと居ると。
「あ、一応聞くけど、凛太、イタリアン、好き?」
「好きです――というか、嫌いなもの、あんまりないです」
そう言うと、そんな気がしてた、と瑛士さんは微笑む。
「あと十五分位でつくから」
「はい。あ、海、見えてきましたね」
「うん。海沿いにあるレストランだから。今日は晴れてるから、景色、最高だよ」
わー楽しみです、と頷いて、そのまま、キラキラ光る海を眺めていると、スマホが震えだした。――あ。竜だ。
「電話出ていいですか?」
「もちろん」
「――もしもし、竜?」
『ああ、凛太? ――二日酔い大丈夫だった?』
「うん。そこまで二日酔いって感じじゃなかった。昨日ありがとうね」
『いいけど――』
「うん。けど?」
『――あぁ、もしかして、今、瑛士さんて一緒?』
「あ、うん」
『じゃあ来週でいい。まあでも――凛太』
「ん?」
『オレが言うこと、瑛士さんに言うなよ? ってまあ、ほんとはオレが言うことでもないんだけど』
「うん?」
『――柔らかく見えても、αだからな?』
「え?」
『しかもとびきりランク上のαだろ。まあ……あんまり執着されないように』
「え? どういう意味?」
『詳しいことは月曜言うから。まあでも、多分なんだけど』
「うん」
『学校の奴らは、お前の敵にはならない。――と思う』
「ん?? あ、そう。なんか今日ね、大学に行ったらなんか、皆がちょっと」
『なんとなく分かる。とりあえず悪いようにはならねえかな……じゃ月曜な』
「……ん、分かった。じゃね」
竜が、はっきりしない話し方するの、珍しい。瑛士さんが隣に居るからなのかな。
……ま、いっか。月曜聞けるなら。
「竜くん?」
「あ、はい」
「何て?」
「二日酔い大丈夫だったか、とか」
「――仲いいんだね」
「あ、はい。まあ」
……そうなんだけど。
今の電話は何か、変だったけど。
「ずっと仲、いいの?」
「えーと……大学で会ったので、ずっとって言っても、三年目ですね」
「ふうん、そっか――そういえば、何で竜くんには、凛太のフェロモン、分かるの?」
「……何で……えーと。何ででしょうね。あ、でも、匂っても反応しないから平気って言われてるので、そういう意味で感じてるわけじゃ無いと思うんですけど」
……オレって今、何の言い訳をしてるんだろうと思いながら、言い終えて。
言い終えたら、なんだか、言い訳をしたこと自体が、少し恥ずかしくなってきた。
関係ないよね、そんなの、瑛士さんに。えええっと……。違う話。
「あ、そういえば」
「ん?」
「今日、教授に会ったんですけど……なんか一回、診察を受けろって言われちゃいました」
「なんの?」
「Ωの判定不能っていうの……詳しく調べたいって」
「どういうこと?」
「ええと……Ω要素が弱すぎるからの判定不能と、違う理由の判定できないってものがあるって……?」
「凛太は、医者に弱すぎるって言われた訳じゃない?」
「言われたと思います。弱いんだと思って生きてきたし」
「まあ、他の理由を否定してから、その結論出した方がいいかもね」
「え。この話、分かるんですか?」
「ん、そうだね――職業柄、何となく」
職業柄、か。……そういえば瑛士さんて、何の仕事してるんだろ。三年でやりたいことって。と思った時。
「ついたよ。降りよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
――瑛士さんから説明しないなら、聞かない方がいいよな。オレはシートベルトを外して、車を降りた。
イタリアン系のファミレスしか想像できてなかったのだけれど、全然違った。
白い壁と、青い屋根。建物が海みたい。わー、オシャレだ。中に入ると、窓が大きくて明るい。木製のテーブルとイスに座ると、「瑛士さん、いらっしゃい」と、これまたオシャレな男の人。
海と砂浜が窓から見える。素敵すぎるんですけど。
瑛士さんと居ると、なんだか不思議な空間に、ひょいひょいと、連れ込まれる気分。
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