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39.実験?
「どうする? 凛太、おすすめにしてもらう? 選ぶ?」
少しメニューを見た後、「おすすめがいいです」と言うと、瑛士さんは頷いた。
「了解。飲み物は?」
「えと……お水でいいです」
「ん。じゃあ、それでお願い」
瑛士さんが笑顔で見上げると、その店員さんが、ふ、とオレを見て笑った。
「可愛い子、連れてますね?」
「でしょ。――婚約者」
「――えっ!」
めちゃくちゃびっくりした顔をしてる。
周りのお客さんに見られて、少しお辞儀をしながら、こそこそと、話してくる店員さん。
「嘘でしょ、瑛士さん、ついに結婚ですか?」
「ああ、まあ、じいちゃんに許可取ってから正式に決まるけど。今連絡待ち」
「……今年一番びっくりかも」
そんな風に言って、「あ、変な意味じゃなくて」と、オレに向かって言う店員さん。
「瑛士さんに、結婚が結びつかないだけなのでって、この言い方も良くないかな?」
苦笑してるその人に、オレも、いえいえ、と笑ってしまう。
オレだって、瑛士さんみたいな人が、オレみたいな人、結婚するって連れてきたら、驚くと思うんだよね。
瑛士さんに結婚が結びつかないっていうのは、そうなのかもしれないけど……。
まあ、基本この反応だと思ってた方がいいんだろうな、と心の中で納得してると。
「初めまして。瑛士さんの後輩の、|和智《わち》です」
常に持ってるのか、後ろのポケットから、名刺入れを取り出して、渡してくれる。|和智 新一《わち しんいち》さんと書いてあった。立ち上がって、「三上 凛太です」とお辞儀をした。
瑛士さんの後輩さん。α、だよね。というか、αでしかないだろうな。
「あ、座ってください」
そう言われて、席につく。
「にしても、随分、年下じゃないですか?」
「うん――可愛いでしょ」
ふ、と笑う和智さんを見上げてから、瑛士さんはオレを見つめた。
「新一はね、大学の後輩――この店のオーナーシェフだよ」
「瑛士さんに出資してもらって、店を出しました」
ふふ、と笑う和智さん。
「だって、新一の料理、おいしいから。凛太のことは、凛太くんて呼んであげて。京也さんや拓真たちもそう呼んでるから」
「はい。以後、よろしくね、凛太くん」
「あ、はい。よろしくお願いします」
頭を下げて挨拶すると、和智さんは「おすすめ、楽しみにしててね」と笑って立ち去って行った。
「瑛士さん、こういうお店に出資とかもしてるんですね」
「うん。ここ、結構繁盛してるんだよ」
確かに、お客さん、いっぱい居る。
「瑛士さん、いろいろしてるんですねぇ」
すごいですねぇ、と頷いてると、瑛士さんはクスクスと笑った。
「言ったでしょ、お金は捨てるほどあるから。無意味に配って歩くわけにはいかないけど、頑張ろうとしてる人が、お金で頑張れるなら。ほとんど無利子で貸すこともあるかな」
「わー。すごいですね……」
なんだか良く分からないけど、本当にすごい人な気がしてきた。
本業は何だろ? と、また思う。
「――ごめんね、急に紹介しちゃって」
「あ、いえいえ」
「普通に紹介して、どんな反応するのか、ちょっと実験してみた」
「あ、実験だったんですか?」
「ごめん。――凛太とオレって、どう見えるかなーと思って」
「……どう見えるんでしょうね……どう見ても、兄弟とか……?」
うーんと、考えながら言うと、瑛士さんは、ぷは、と笑う。
「でも、新一は、離れてますね、とか、びっくりしたとは言ってたけど――割と普通に受け止めてたかも」
「……そう、かも、ですね」
「実験したかったのがさ。じいちゃんに会うだろ。あそこが難関なんだよ」
「はあ……」
「疑われそうだから、いろいろ、考えとかないと、て思ってて」
「なるほど……」
「ただでさえ、あの人、オレが結婚するって思ってないからさ」
「――そうなんですか?」
「まあ……そうだね」
苦笑して、肩を竦める。
「どこで出会ったことにしようかな。凛太とオレ、共通点――」
「うーん……あんまり嘘つくと、つじつまが合わなくなって、バレちゃうので」
「ん?」
「あの、道路で、偶然会って一目惚れ同士、っていうのは、どうですか?」
「――」
「あーでも、オレが瑛士さんに一目惚れはあるけど、瑛士さんがオレになんて、ありえないから、即ばれちゃうか…な……致命的でしたね。うーん……」
もうちょっとひねらないとだめですね、と呟いていると、瑛士さんは、おかしそうに、クックッと笑ってる。
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