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54.圧??

 瑛士さんと朝ごはんを食べて、仕事に送り出した午前中。勉強してたら竜から電話がかかってきた。  オレが図書室から借りた本が読みたいってことだったので、オレも竜と話したかったし、会うことにした。  駅近くの喫茶店で待ち合わせて、端の席に座った。  なんとなく、瑛士さんとのやりとりをちょっと竜に話してみる。  というのも、竜が、瑛士さんって距離、近くないかって聞いてきたから。  たしかに近いかなあ。……ご飯食べるとかはまだありかなと。一緒に勉強とか仕事するのもあり? ホットミルクを飲んだついでに、同じベッドで寝るのは……無しかな?  途中から、竜は少し眉を寄せて聞いていたけど。とりあえず、どう思うか聞いてみたくて、話してみた。 「やっぱり、距離近すぎ? 会ったばかりなのに、信用しすぎかな……?」  一緒が自然な気もするような瑛士さんの雰囲気に、オレはすっかり流されているのだけれど、これはやっぱりおかしいのかなと、竜に聞いてみると。少し黙って考えてた竜は、ため息をついた。 「会ったばかり、とかは、関係ないと思う」 「そう?」 「どんなに長く会ったって、信用できねえ奴は出来ないだろ?」 「あ。そう、だね」 「で、信用できる奴は、会った瞬間から、なんか良さそうって分かると思うんだよな」 「――うん。なるほど。確かにそうだね」  その話で行くと、竜なんて、結構つんつんしてたけど。なんか、最初から、平気だったなあ。この人は、好きかもって思ってた。 「凛太は、瑛士さんを、信用できそうって最初に思ったんだろ」 「うん。そうだね」 「で、向こうも、そうだったんだと思う」 「ん」 「そこまではいいんだけど――」  だけど。なんだろう。なんだか少しドキドキしながら、竜の言葉を待ってると。 「――契約結婚が、本気になること、あると思うか?」 「え?」 「本気で、結婚すること――あると思う?」  そんな風に聞かれると、考える間も無く「無いと思う」と答えてしまう。 「それは、なんで?」 「だってなんか――違う世界の人だよ、完全に。色んなお金とかの考え方もさ、年も違うし――周りの人達も、会う人皆、αの人ばっかりで、びっくりなことばっかり」  竜は、小さく頷きながら聞いてくれている。そこまで言って、しばらく考えてから、オレは言った。 「オレ、フェロモンとかも微妙なΩで、子供とかも産めないかもだし――あんなαの人の奥さんになる可能性とか、まったくないよ。ていうか、そもそもが契約結婚なんだから、そんなの、まったく考える余地もないよ」 「凛太がそう思うなら……少し離れた方がいいと思う」 「……だよね」  まあ、分かってた、と頷きながら、アイスコーヒーを飲む。 「オレ、昨日、月曜話すって言ったろ」 「ぁ、うん。あれ、何だったの?」 「瑛士さん――ってもう。なんかそう呼んでるけどいいよな」 「うん。いいよ。もう自然に呼んでるし」  クスクス笑って答えると、竜は頷いてからオレを見つめた。 「瑛士さんさ、お前がつぶれてるところに来て、教授と少し話した後、皆に向かってさ。『北條瑛士と言います。凛太がお世話になってます。今回色々考えた末、Ωだということを公表して、驚かせてしまったかと思うんですが――本人、今までどおり頑張ると思うので、引き続き仲良くしてやってください。よろしく』みたいなこと、言ったんだけど」 「うん……ていうか、そうなんだ。あそこでそんなこと言ってくれてたんだ。挨拶した、みたいなのは聞いてたけど、こんばんは、くらいかと……」  「まあ、でも、これだけならまあ、ちゃんと挨拶してるなーくらいだろうけどな」 「うん。あんな初めてのところで、急に、そんなこと言ってくれるの、すごいなーと思うけど」  そう言うと、竜は、まあそうなんだけど、と笑って。 「圧が、すさまじくてな」 「圧?」 「凛太は感じないんだろうけど――αの上位の奴らってさ、人に、言葉やフェロモンで、圧力、掛けられるんだよ。本気で怒った時とか、それで、人が倒れるくらい」 「まあ……聞いたことはあるよ。あるけど……」 「あるけど、何?」 「瑛士さんて、めちゃくちゃ優しいよ??」  そう言ったら、竜は、めちゃくちゃ嫌な顔で、オレを見た。 「お前には優しいかもしれないし、普段も優しいのかもしれないけど――αだからなって言ったのは、そういう意味。いざとなったら、笑顔で、すごい圧をかけられる人だってこと」 「――んー……まあ、トリプルSなんて、実際いるのって感じだから……できるのかもしれないけど」 「……少なくとも、あそこに居て、あの人を見てたαは、この人に逆らっちゃまずい、て思ったんだよ。――お前が昨日、学校の皆が変だったって言ってたのは?」 「え、なんか……困ったことがあったら言ってーとか。あんなすごいのとどこで知り合ったの、とか聞かれたり……」  そこまで言ってて、それが全部、竜が言ってるのと結びつく。 「あ。……瑛士さんのそれがあったから、皆、あれなの? 怖かったの?」 「怖いというか――逆らったり、お前に何かしちゃまずい、みたいな。ああ、すごいαなんだなって、皆が分かった感じ」 「……ああ。なんかね、オレの悪口とか、瑛士さんの悪口、言ってるの、入る前に外で聞こえちゃったみたいで……それは言ってた」 「だから余計だったのか」  竜は納得したように頷いて、でも苦笑してる。 「お前も起きてたら良かったのに。笑顔であんな感じ、初めて感じた」 「起きてても感じたか分かんないけど……」 「……お前のその鈍いの、マジなんなの?」 「教授たちの診察受けろって言われた」 「ああ、それ良いな。今はどこの病院行ってんだ?」 「Ω診断を受けた、前の家の近くの病院」 「いい病院?」 「普通?」  オレが首を傾げると、「診察うけろって、内海教授たち?」 「そう」 「ぜひ受けて来い」 「いくけどさぁ……」  なんだかなぁ、もう。  ため息。

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