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61.楽しみ

 翌朝。余ったご飯を全部おにぎりにして、大学に持ってきた。  土曜に会った以外の大学の皆にも、朝から色々会ったけど。うん。瑛士さん効果はすごい。オレ、しばらくは耐えようと思っていたのだけれど、全然耐えなくて良さそう。  なんなら、あの場に居なかった人達も、瑛士さんのことは耳に入ってて、なんだかすごく好意的だ。ほんと、なんか――αの世界って、ものすごーい、ランク社会というのか。  ……αは、Ωとかβを下に見てる人が多いくせに。その中でも上下が激しくって。   ――上下をつけないと生きていけないのかなあ? へんなの。  αは、能力とか見た目とか、いい人が多い。強くてカッコいいなら、それ以下の人に優しくしたらいいのに。  瑛士さんみたいに――優しい人が、いいなぁ……。  ――ん。  んん。  いいなぁって……何だろ。  まあ、とにかく、瑛士さんて、優しいもんなぁ。  そんなことを思いながら、講義が始まるのを待って、ぼんやり窓の外を見ていたら。 「凛太」 「あ、竜。おはよ。あ、これあげる。好きな時、食べて」 「?」 「昨日のほどあんまり凝ってないけど、一応おにぎり」 「二日酔いではなかったってことか」  サンキュ、と受け取った竜に、うん、と頷く。 「昨日のみたいな凝ったのも、また作ってくるね」 「ん」  隣に座った竜に、「あ、そうだ」と思い出した。 「昨日さ、何を試したの? 契約ですよねって聞いたやつのこと?」  最後の方は声を小さくして、聞いてみると、竜は「あれは違う」と即答。あれ。じゃあ何? と聞くと。 「あれは、とりあえず今はそう答えるかなと思ってたし」 「……今は?」  首を傾げると、ん、と答える竜。 「そっちじゃなくて――オレが凛太を支えようとしたら、どうするのかって」 「あ、ふらふらしてたから? ごめん、次は気を付けるから。瑛士さんにも、いつもふらふらしてるとか思われたくないし」 「――そう言うことじゃねえよ」  竜はちょっとため息をついた。 「まあ……凛太がオレに倒れる前に、見事に奪われたけど」 「え? 奪われた?」  あ、瑛士さんが支えてくれたあれのことか。 「ん? あれ、試したの? 何を?」 「一瞬真顔だった」 「真顔?」 「――触んな、て感じ」 「そんな感じ、あったっけ……??」 「危ないよ、凛太って、お前が注意されてた」 「でもその後、にっこりしてたし……?」  良く分からなくて、続けて話してると、竜は軽く首を振って、もういい、と苦笑した。   「――凛太。いっこだけ言っとく」 「うん?」  まっすぐ、竜のことを見つめ返すと。 「流されるんじゃなくて、ちゃんと自分で決めろ。それなら、オレは応援するし、なんかあったら助ける」 「流されずに自分で……うん。分かった」  竜の話はよく変わらないけど――流されるなってことは分かった。  まあ……なぜか瑛士さんの話には、あんなに簡単に乗ってしまったけど。でも。基本的には、流されるのは、好きじゃない。 「頑張る。――あ、とりあえず週末は、瑛士さんのおじいさんに会えるみたい」 「へえ」 「とにかく空けといて、だって」 「二日間?」 「うん。予定が空いたらすぐ来るからって。まあオレは家で勉強してるから、瑛士さんが大変かな。仕事あるだろうし……」 「家に居るとは言っても、すげーな。二日間空けとけって。まあ完全に、αのトップの一族だからな――バレないようにな」 「……うん。多分、大丈夫なはず」  そこまで言ったところで、教授が入ってきた。ざわついてた教室が静かになり、皆、前を向いた。竜とオレも、まっすぐ座って、口を閉じた。授業が始まり、話を聞きながらも、ちょっと考えてしまう。  少し緊張するけど――。でも、結婚を疑う人って、あんまり居ないだろうから、大丈夫かな。ただ、認めてくれるかどうかは別問題だよね。そっちが心配。  あと、オレがΩって言うのを疑われそうな気がするなあ。Ωの診断証明書、すぐ出せるようにしとこ……。  瑛士さんのおじいさん。  どんな人なんだろう。  誰も逆らえないっていう、会長さんかあ……。瑛士さんも逆らえない? うーん。怖い、のかなあ。  でも、あんなに若い瑛士さんを、CEOにしてフォローしてるんだから、瑛士さんを大事にしてる人、だよね。  ……てことは。  瑛士さんが大事に想うあまり、オレなんかと結婚なんか許さん、とか……怒られたりして。瑛士さんを助けるバックボーンみたいなのがある訳でもないし、横に立って、納得されるような、見た目でもないし……。  そう考えてると、ちょっと憂鬱に――……。  あ、でも。  でも、おばあさんのこと大好きだった、優しい人、なんだっけ。そっか。氷みたいに冷たい仕事人間、て感じじゃなさそうかなあ……。瑛士さんに似てるなら、優しいかも……。  ドキドキはするけど――やっぱり、楽しみかも。

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