65 / 139

60.癖になったら。

「……瑛士さんて、変わってますよね」 「うん? そう?」 「――そんなこと、言われたの、初めてかも。そんな意味で、感謝、なんて……」  じわ。と。何でか涙。  ――あれ? なんだろ。気づかれないように、ちょっと顔を背けたのだけど。息を吸ったら、鼻が少し音を立てた。え。オレ、泣いてる?? 「凛太?」  瑛士さんが、多分変にしてる。「何でもないです」と言って、オレもお布団にくるまって横になった。――何でオレ、涙? 良く分かんないな……。情緒不安定、みたい……飲みすぎちゃったかな……?  瑛士さんが動く気配がして、部屋の電気が消された。 「凛太」  瑛士さんの手が、肩に触れたと思ったら。体の下に瑛士さんの手が入って、そのまま、あっという間に抱き寄せられた――みたいな。  後ろから、ぎゅ、と包まれる。 「なんか凛太って――ちっちゃいよね」  くす、と笑う、優しい声。 「瑛士さんがでっかすぎるんですよ……」  オレも笑って返すと、瑛士さんは、「そっか」とまた笑った。それは、本当に、全部包まれちゃうような気がする、優しい声で。 「何か、オレ――凛太がここに居てくれて、嬉しいんだよ。会ったばっかりで、何言ってんのって感じかもしれないけど」 「――」 「知り合えて本当に良かったと、思ってるんだよね……」  ぽつぽつ、ゆっくりと話す瑛士さん。なんだか、胸の奥の方が、きゅうって、痛い。この感覚は、何なんだろう。良く分かんない。 「あのさ――オレがすることで、凛太が嫌なこと、あったら言って。言ってくれたら、ちゃんと考えて、自重できるところは、するから」 「……はい」 「言われなかったら、オレ、したいようにするから。嫌ならすぐ言って」 「……したいようにするって……αっぽいですね……」 「――」  瑛士さん、黙ってしまった。オレの言う「αっぽい」はきっと嫌な意味で取れるんだろうと気づいたオレは。 「とりあえず……いまのところ、瑛士さんがオレにしたり、言ってくれたことに、嫌なことは、ないです」  そう言ったら、後ろで、ホッとしたように息をつく瑛士さんに、きゅ、と抱き締められた。抱き締められたというよりは、なんか、包まれてる感覚だけど。瑛士さんの鼓動が、背中越しに伝わってきて――なんか、すごく、安心する。 「……嫌なことあったら、すぐ、言いますから。言わない限り、好きにしててください」 「――ん、分かった。少しでも、ん? て思ったら、言ってね」 「分かりました……」 「――これ、嫌じゃない?」 「……嫌、ではないですけど」 「けど?」 「……抱き枕化されてる気分ですね」 「――」  少し間を置いて、瑛士さんは、ぷは、と笑い出した。クックッと、揺れてる瑛士さんの震動が、ダイレクトに伝わったくるから、なんか、楽しくなってくる。 「可愛い抱き枕だよね」 「あ、やっぱり抱き枕……」 「オレが言ったんじゃないよ」  クスクス笑う瑛士さん。 「さっき、凛太さ……くっついて寝てるから邪魔じゃないか、とか言ってたでしよ?」 「あ、はい」  頷いて、次の言葉を待っていると。 「あれ……凛太がくっついてきてる訳じゃなくて、夜中にオレが引き寄せてるだけだから。ちなみに、連れて帰ってきた時もね」 「……あ、そうなんですか……?」 「なんかスヤスヤ寝てるの可愛くて、つい……凛太抱っこしてると、なんか安眠するみたいで」 「――やっぱり抱き枕みたいですね」  ふふ、と笑うと。「可愛い抱き枕だよね」と、瑛士さんも笑う。 「瑛士さん、可愛いって、言いすぎですよ」 「嫌?」 「嫌とかじゃないんですけど……あまりに言われ慣れてなくて、言われるたびに、不思議な気持ちになります」  そう言うと、瑛士さんはクスクス笑って――「オレも不思議」とか言う。  ……不思議?? 瑛士さんも?  言ってるの瑛士さんなんだけど……不思議?  良く分かんないなあと思いながらも、大きなあくびが。 「ん。おやすみ、凛太」 「はい……おやすみなさい……」  なんか、全身、ぽかぽか暖かくて。  ――こんな寝方、癖になっちゃったら、どうしよう……なんて思いながら。でも、抜け出す気分にはならなくて。そのまま、あっという間に眠りについた。

ともだちにシェアしよう!