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64.運命とか相性とか

 金曜、夕方。  今週も瞬く間に一週間が終わろうとしてる。  瑛士さんとは、夕飯は一緒だったりバラバラだったり。でも、毎晩ホットミルクは飲みに来るから、そのままの流れで朝食はいつも一緒。  昨日は瑛士さんは出張だったから、夜も一人だったし、朝も当然一人で食べた。  一人で食べることや寝ることに、違和感を感じるとか、少しおかしいなと思いながら、今朝は家を出てきた。……でもまあ、あのマンションの豪華さや、広すぎるベッドへの違和感があるので、しょうがないのかもしれないけど。  今日は帰ってくるのかなあ。仕事次第って言ってたけど。明日か明後日、瑛士さんのおじいさんに会うみたいだし。  瑛士さんが今日早めに帰ってくるなら、オレも切り上げてご飯を作ってもいいんだけど、帰ってこないなら、しばらく色々勉強していきたい。  スマホを開いて、瑛士さんとの画面を開く。  朝一で入ってた、「おはよ、凛太」に挨拶を返したきり、何も入ってない、ということは――帰ってこないかな。  スマホを机に置いて、本に視線を戻した時、「凛太」と竜の声がした。 「あ、竜」  そういえば昨日も一昨日もあんまり会わなかったような。 「学校来てた?」 「来てたけど、ちょっと研究室にこもってた」 「授業出ないと」 「出たよ。一番後ろに座って、終わると同時に帰ってたから」 「あ、居たんだ」  なら良いけど、と笑うと、「今日はまだやんの?」と聞かれた。 「うん。やろうかなーって……」 「そっか。――そういや、教授たちのとこ、行ったんだろ? どうだった?」 「あ、そうだ、話してなかったね――うーん。普通のΩの三十分の一くらいしかフェロモン出てないって」 「……数値で聞くと、すごいな」  隣の空席に腰かけながら、竜は苦笑してる。 「ただ、低いだけなら、竜が気づくこともないからって理由で――オレのフェロモンは、特定の相手にだけ分かるのかもって」 「――ふうん?」 「相性がいいのかもって。竜とオレ」 「まあ……悪くはねえだろうけど。そういう意味じゃねーよな」 「うん。なんか運命みたいですねーて言ったら……オレの結婚話があるからだと思うんだけど、可能性の話だよって、フォロー入れてくれてたけど」 「そこらへんの話、瑛士さんに言ったか?」 「ううん。なんか今週忙しそうで、あんまりゆっくり話してる暇なかったから、言ってないんだよね」 「言った時の反応、よく見といて、面白えから聞かせろ」 「面白いって何が?」  聞き返したけど、「まあとにかく報告待ってる」と竜は言う。オレが一応頷くと、竜は、肩を竦めながら。 「――にしても……特定の相手だけに分かるフェロモンか」 「うん」 「運命の番ってやつが浮かぶけど、その特定の奴がオレだっていうなら、弱すぎて、違う気がする。オレ、お前に欲情したこと、無いし」 「……つか当たり前だし、恥ずかしいから、変なこと言わないでよ」  むっとして竜に文句を言うと、はは、と笑ってる。……絶対わざと恥ずかしいこと、面白がって言ったな。と思いながら竜をちょっと睨む。竜は苦笑しながら。 「でもまあ、人としての相性っつーなら、別に否定はしないかも」  そんなセリフに、「まあ……そうだね」ともう笑ってしまいながら、「なんかさ」と続ける。 「特定の相手――相性が良いとか、もしかして運命の人とか。心の状態とかに応じて、フェロモンが出せるとしてさ。それで、抑制剤とか余計な薬も飲まなくて良いなら、なんかそれって、もしかして、『進化』なんじゃないか、とか教授たちが言ってて」 「――まあ確かに、進化かもな。そのΩは、大分生きやすい体質ってことだよな」 「ねー。オレ、進化一号だったりしてって、話してきた。だとしたら、研究したいよね」  ふふ、と笑うと、竜はちょっと呆れてる。 「お前って、幸せだよな、考え方」 「――そう?」 「そうだよ――つか、結論は?」 「詳しい検査結果待ち。また来週かな――ていうか、結果出ても、分かんないかもしれないけどね」 「まあ、凛太しかいないなら、推察も確認しようがないしな」 「ね。だからある程度は、推測と可能性ってことで終わっちゃうかもだけど……でもなんか色んな可能性があるのは、ちょっと面白いよね。だって、ただフェロモンが弱すぎるってだけだと、つまんないじゃん」 「面白いとかつまんねーとかの話じゃないけどな」  呆れたように笑う竜に、ふ、と苦笑した時。  ぽっとスマホが光った。 『凛太、今日は早く家に帰る?』  あ、瑛士さんだ。――これは、早く帰ってこれるってことかな? オレの顔を見て、竜が「瑛士さん?」と聞いてくる。 「あ、うん。ちょっと待ってね」  今、どうしようか考えてました。瑛士さんは? と、聞き返すと。 『今、会社に帰ってきたところだから、色々したらマンションに帰るつもり』 「じゃあオレも帰ります。ご飯作って待ってますね」 『お土産買ってきたからね』  その文字に、ふ、と微笑んでしまう。「ありがとうございます」のスタンプを押して、スマホをテーブルに置くと、オレは、筆記用具をしまい始める。 「まだやってくんじゃなかったのか?」  ニヤ、と笑って竜が聞く。 「そうなんだけど、瑛士さんが早く帰るみたいだから――教授たちと話して思ったんだけど……フェロモンを感じる、感じないの話、瑛士さんと話しておいた方がいいなって思って」 「――ふーん?」 「結婚するのに、フェロモンを全然感じ合わない同士って、へんだから――辻褄があうように話してから、瑛士さんのおじいさんにも会いたいし」  そう言うと、竜は、ふ、と笑った。 「来週には顔合わせ終わってるんだな」 「うん、多分」 「じゃあ話、楽しみにしてるわ。ぼろ出すなよ?」 「うん。がんばる」  じゃあな、と竜は 離れていった。その後ろ姿を見ながら。  ――運命の番、ねぇ……。  オレ側からも、竜のフェロモンを感じることはないもんなぁ。  やっぱ、違うよな。運命だったら、双方向で感じるはずだもんね。どっちも感じないんだから、無し。  なんて、思った。 

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