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65.母さんの料理

 大学からの帰り道、買い物をして帰って、ご飯の準備にとりかかる。  昨日は作らなかったし、ちょっと張り切って作ろう。とりあえず出汁を取って、炊飯器をセット。  ぶりと長いもの唐揚げ。どっちもひと口大に切って、ぶりは塩を振って下処理。ビニールでショウガと酒と醤油に絡めとく。  大根の豚ひき肉のとろとろあんかけ。甘めのだしがおいしいんだよね。瑛士さん、好きそう。  汁ものは……豚肉少しだけ入れて、キャベツ山盛りの豚汁にしよ。あと、キュウリとわかめの酢の物。  瑛士さんに聞いて、卵食べてなかったら、だし巻き作ろう。お酒、少しだけなら、飲むかなあ。  なんだか色々考えながら、下準備オッケイ。作りすぎ? いや、足りる? まあ残ったら明日食べればいいし。  あ。そうだ。瑛士さん、キンピラ好きだから、作ろうかなぁ、なんて思っていたところで、瑛士さんから電話がかかってきた。 『凛太? ごめん、手伝うつもりだったのに遅くなった』 「全然平気です。今日はオレに任せてください。今ちょうど下準備、終わったとこなので、もう作り始めますね。あ、瑛士さん、今日、卵食べました?」 『食べてないよ』 「だし巻き――」 『食べる』  聞き終える前に間髪入れずに答えてくれて、ふふ、と笑ってしまう。揚げる用の油を温め始めて、豚汁用の鍋を火にかけた。 「あ、キンピラは」 『食べたい――あ、大変じゃなかったらね』 「はい。瑛士さん、お酒飲みますか?」 『酒に合いそうなの?』 「そう、ですね。合いそうです。日本酒でいいです?」 『じゃあ、凛太も飲むなら、一緒に少しだけ』  ホットミルクを飲むなら、お酒控えようかなあ、というのは瑛士さんが言い出したことだった。寝付けないからアルコールを入れてたらしいんだけど、それはそれで、安眠できるとは別だったみたいで、飲みたくて飲んでるんじゃないし、飲むのやめようって。でも、軽く、二人で一緒に飲むくらいなら、楽しいから飲もうかなーていうのも、言ってて。  ……なんか、そんなふうに言う瑛士さんが、ちょっと可愛いんだよなぁ。  お酒控えてホットミルク飲む、とか。一緒に飲むのは楽しいよね、とか。  …………あんな年上の、α様に、可愛いなんて言ったら、|顰蹙《ひんしゅく》を買いそうだけど。  心の中で言うなら自由だよね……とか言いつつ、たまに、可愛いですねって言っちゃってるような気も……?  『今マンションの前。スーツだから、部屋着に着替えてから行く』 「はーい」  電話を切って、色々仕上げに入る。  コンロもカウンターも広くて、料理がめちゃくちゃしやすい。   ――母さんと一緒に作ってたの……懐かしいなぁ。  なんか……母さんに話したいな。  契約結婚なんてものをすることになって、その相手の人と、母さんに教わったご飯を一緒に食べてるんだよって。びっくりしそうだな、契約結婚なんて。  でも心配しないでって言いたい。良い人だと思うから。オレの夢も引き続き頑張るし。  母さんは複雑だろうけど、父に頼らなくても、生きられそうなのは、瑛士さんのおかげだから  ――出会えて良かった気がしてる。  こんな風に、一緒にご飯食べたり。ちょっと、楽しい副産物がついてきたし。  でも、もしかしたら、オレがご飯を作れなかったら、こんな風に仲良くはなれてないかも。一緒に食べようとかも無かったわけだし。  そんな風に思ってると。  なんか。  母さんの教えてくれた料理が――瑛士さんと、仲良くしてくれたみたいで。  ちょっと嬉しい。

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