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66.張り切って。

「ただいま、凛太ー」  あ。瑛士さんだ。オレは急ピッチで仕上げてた手を止めて、リビングを出た。 「おかえりなさーい」  玄関まで迎えに行くと、瑛士さんに肩を抱かれて、「なんか、癒し……」とか言われる。そんな瑛士さんを見上げて「疲れてますか?」と聞くと。 「すげー疲れた。あ、これあげる。お土産」  渡された紙袋を持つと、肩からは手が外れた。 「京都でしたよね?」 「そう」  紙袋、なんだかずっしり。 「なんか……いっぱい、買ってきました?」 「何が好きか、聞いてる暇はなかったし、目についたものたくさん」 「瑛士さん、お土産代だけですごそうですね」 「会社にはでっかい箱のお菓子。それは京也さんが適当に買ってたし。オレが買ったのはこれだけだから」 「――あ、オレにだけなんですか?」 「そうだよ。一日出張で、そんな色んな人に土産買わないでしょ」 「――」  と言いつつ、オレには買ってきてくれるのかぁ……と思った時。なんだか、また――胸のあたりに違和感。変な感じ。 「なんかすごいたくさん、作ってくれたんだね」  瑛士さんがテーブルの上を見て、嬉しそうに笑ってくれる。 「時間あったので……張り切って作りました」  張り切りすぎたかもしれない……作りすぎた? と、少しやりすぎたかなと考えていると、ぽんぽん、と頭に手が乗った。 「ありがと、凛太。すげー嬉しい。張り切ってくれて」 「――ぁ、はい……」  見上げた先には、めちゃくちゃ綺麗な紫の瞳が、ふんわり優しく緩んで、オレを見つめてる。……とくとく。心臓。  オレの方が――嬉しい気がする。 「残ったら……明日、食べればいいかと思って」 「うん。そうだね。でもオレ、すげー凛太のごはん、食べたかったから、食べちゃうかも」 「それはそれでいいですけど」 「凛太も食べて、もう少し太って」  また言われてる、とクスクス笑ってしまう。 「あ、でもオレ、少し体重増えたかもです」 「そう?」 「なんか鏡見てて思ったんですけど、頬が丸くなった気が」  すると、瑛士さんは、オレを覗きんで、両頬に触れて、つまんだ。 「んー……言われてみれば、ちょっともちっとした?」 「そんな触り方で分かるほどじゃないと思うんですけど……」  オレが苦笑すると、頬から手を離して「でもなんか、つやっとしてる気もする」と、瑛士さんが微笑む。 「ホットミルクかなあ……前より早く寝てるし、色々良い感じなのかもです」 「それは良かった」  クスクス笑う瑛士さんに頷きながら、貰ったお土産を紙袋から出してカウンターに並べる。  お菓子系のおみやげがいくつかの中に、何だか、可愛い包装のもの。   「これは食べ物じゃないんですか?」 「んー? あ、それはね、綺麗だったから。凛太に見せたくて」 「何ですか?」 「開けてみて?」  箱を開けると、中に入っていたのは、可愛い可愛い、和菓子みたいな形と色合いの、ろうそくだった。  可愛らしいお皿が入っている。 「ここに水を入れて、ろうそくを浮かべて、火をつけるんだって。見本があったんだけど、綺麗でさ」 「――え、見たいです」 「ああ、じゃあ、今つける? 両端ろうそく付けたら、まあまあ明るいんじゃない?」 「はい! あ、じゃあ準備出来たら!」  わぁ、すごく楽しみ。  何この素敵すぎるお土産。――瑛士さんて。ほんと。モテるだろうなぁ。  ていうか……モテないはずないか。当たり前のことを思ってしまった。 「手伝う。あと、何する?」 「ごはんと豚汁はよそうので、お酒、出してもらえたら」 「了解」  手分けして準備を終えて、テーブルについてから、瑛士さんがろうそくに火をつけて、両端に置いてくれた。電気を消すと、ゆらゆらした炎で、室内がキラキラして見える。 「わぁ……想像したよりも、もっと綺麗ですね……」  目の前に座ってる、瑛士さんの顔も、ろうそくに照らされて、何だかいつもとはまた違う雰囲気で。 「――楽しい、ですね」  瑛士さんと居ると――……楽しい。 「オレも。楽しいよ」 「……ほんとですか」 「なんで聞くの。楽しいに決まってるし」  って、なんか言わせてしまったような気がして、なんとなく何も言えずに、微笑んで頷いていると。 「凛太が居なかったらさ、なんか買ってくるか食べてくるかして、一人で部屋に帰って、シャワー浴びて、ちょっと何か飲んで、眠れないなーと思いながら、寝ただけだよ」 「――」  オレが居なかったら、誰かのところに行ったんじゃないのかなぁ……とも思いながら、それは言わずに頷くと。 「凛太にお土産選ぶのも楽しすぎて、あれこれ言いながら買ってたら、京也さんにすごい笑われたし。早く帰ろうって頑張ってたら、そんなに会いたいんですかって笑われたし。――さっき会社から凛太に電話して、オッケーくれたから即仕事済ませて帰るって言ったら、もう何も言わなくなったけど、なんか笑われてて――」 「――」 「なんか、京也さんにそんなに笑われるくらい――楽しみに帰ってきたからさ」 「――……」  ……何か。   良く分からないけれど。  涙が出そう……?  ろうそくが綺麗すぎるからかな。ちょっと感傷的な気分になってる……?   なんか、零れそうでやばい。と思った時。  カウンターに置いていた瑛士さんのスマホが突然鳴った。

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