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78.ゆっくりな時間

 フードコートみたいなところもあったのだけれど、ちゃんとしたレストラン。瑛士さん、いつのまに予約したのか、混んでるのにすんなり入れてしまった。すごい。さすがすぎる。  よく考えたらそうだよね、雅彦さん、フードコートで何食べるんだって感じするもんね。  奥の席に案内されて、周りを見回す。  水槽の中、ってコンセプトなんだろうな。全体的に青くて、綺麗な魚たちが壁に描かれている。  真っ白なテーブルクロス。ランチメニューはいくつかのコースから選べるみたいで、細かいことはメニューを見ても分からなかったので、瑛士さんにお任せして、お魚料理メインで頼んでもらった。  運ばれてきた料理は、これまたとてもカラフルで、味も繊細というのかな。とにかくすごく、おいしい。 「瑛士さんと居ると、ほんとに舌が肥えすぎちゃって困るかも、です」  本気交じりで冗談ぽく言うと、瑛士さんはクスクス笑いながら。 「凛太のごはん、おいしいから、舌は肥えてると思うけど」 「そうですか……??」 「うん」 「でも、オレが作る和食と、また全然別の世界の味と見た目です」 「そっか。確かに和食はこんなカラフルじゃないか」 「はい」 「こういうのも、楽しいなら、いろいろ作ってみたら?」  そう言われて、作れるかなあ? とじっと見つめる。しばらく考えてから。 「んー……やっぱり全然違うから、基本からいろいろ修行しないと、ですね」 「一緒に作って覚えよ」  そう言って優しく笑う瑛士さんに、オレはなんだかとっても嬉しくて、はい、と頷いた。  料理を口に入れて、おいしすぎる……と黙って食べていると、瑛士さんが、クスクス笑う。 「凛太、すっごいおいしそうに食べるから……なんか、食べるコマーシャルとか、出したくなるね」 「……何ですか、それ」  ちょっと考えて、苦笑してしまう。 「その商品売れると思う」 「ふふ」  何言ってんだろ、瑛士さん、とクスクス笑ってると、瑛士さんは、本気だよ? とまた楽しそうに笑う。  ――さっき、大事な話がって言ってた時の雰囲気は、すっかり消えてる。雅彦さんも笑いながら話に入ってくるし。  正直、オレは、瑛士さんが何を伝えるつもりなのかなあとドキドキなのだけど。  ――まあでも。これが、契約の、嘘っこの結婚だってことを、伝えるのかなあ、とは思うけど。  だって、それくらいしか、無いよね、今オレを連れて話す大事なことって。  雅彦さん、分かってくれるといいな。瑛士さんが、やりたいことを優先したい気持ち。  多分――大丈夫かなとは思うんだけど。  そんなことを真面目に考えていたのだけれど、次に運ばれてきた料理がこれまたすごく綺麗で、なんだか一気に気分があがった。  透明なソースに浮かぶ白身の魚は外側はカリッとしてて、中は柔らかい。めっちゃくちゃ美味しい……。  なにこれ。緑の野菜……ハーブ、かな? 赤いパプリカとか。色鮮やかなんだよなぁ。和食にこういう野菜使うのもいいのかも。綺麗な和食。ふふ。楽しいかも。  瑛士さんも雅彦さんも、ずっとニコニコしてて優しい。  瑛士さんと知り合ってから、オレはαのイメージが大分変った。  優しくていい人達もいるんだなあって思うようになった気がする。  デザートは、海っぽい。青いゼリーと、バニラアイス。フルーツが花みたいに切られて飾られていて、ナッツや花びらが散ってるのを見つめていると。「食べられる花だよ」と、オレの疑問を即座に解消してくれる瑛士さん、すごい。  静かなBGMが流れていて、すごくゆっくりと時間が流れている気がする。

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