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82.好きと思う気持ち

「婚約を発表するのは、そのパーティーだけど……とりあえず、凛太のお父さんと、親父に顔合わせしないと。じいちゃんも来てほしいんだけど、時間取れそう?」 「あぁ――居た方が、凛太くんのお父さん的にも、スムーズかな?」  雅彦さんがオレに向かってそう聞いてくる。  ――αは強い生き物のくせに、権威に弱い人が多い。より強い上位のαには逆らわない。  ……特に父のような人は余計だ。  瑛士さんも北條グループのCEOだから大丈夫だと思うけど、年齢的なところでいくと、雅彦さんが来てくれた方がきっとスムーズな気がする。 「話はスムーズに進むとは思うんですけど……もし、時間が合うようなら」 「いや。合わせるよ」  オレの言葉をさえぎって、雅彦さんが微笑む。 「近い内、日程合わせようね」  頼もしい感じ。任せとけば大丈夫、な気がする、そんな感じは。  やっぱり二人、すごく似てる。  そこでふと時計を見た瑛士さんが「あ、行かないと」と立ち上がった。なんだ? と雅彦さんが笑う。 「イルカショーあるから、行こう」  聞いた瞬間、嬉しくて、わあ、と笑顔になってしまいながら立ち上がる。すると、くしゃくしゃと頭を撫でられる。 「なんかもうほんと、連れていき甲斐がありすぎるっていうか……何なの、凛太」  クスクス笑う優しい瞳に、なんだか、ふわりと嬉しくなる。    三人で店の出口に向かうと、「ここはオレが払うから」と雅彦さんに言い、支払いは瑛士さんが速やかに済ませてくれた。 「ごちそうさまです」  言うと、「ん」と瑛士さんが微笑む。 「じゃあ行こ。順路的に次なんだよ。すぐ着くから」  その言葉通り、すぐにイルカショーの会場に到着。  前にステージと大きな水槽があって、取り囲むように席が並んでいる。コンサート会場みたいな。結構広い。  子供の頃来た、思い出のまま。なんだかすごく、嬉しい。  結構混んでて、見やすそうな席は結構いっぱいなんだけど、大きな水槽の目の前、ど真ん中の席だけわりと空いてる。 「あそこ、水槽の目の前に座る? 空いてるよね」  瑛士さんが言い、雅彦さんも頷いて、その席に続く階段を下りていく。  あ、でもあそこって、多分水がすごく掛かるのかも……と思いながら二人の後ろを歩いていくと、その席にたどり着いたところで、水族館のスタッフさんが側に来た。水がすごく飛ぶので、レインコートを着て頂いた方がいい、とのこと。 「どうする? ここにする?」  瑛士さんが聞いてくる。 「オレ、ここで見てもいいですか? 楽しそう」 「もちろんいいけど」 「あっ、でもお二人はちょっと後ろの方がいいかもです」  高そうな服、濡れちゃったら困るし。  なんか、水族館でびしょぬれとか、らしくないような。 「レインコート貸してください」  オレがスタッフさんにそう言うと、「あ、オレも」と瑛士さん。すぐ後で「三人分ね」と雅彦さんが笑った。 「いいんですか?」 「いいよ。ていうかせっかく一緒に来てるのに離れて見るとか無いし」  そう言ってくれる瑛士さんと、横で笑顔の雅彦さんに「ありがとうございます」と言いつつも、ちょっと複雑。 「お荷物はビニールに入れてかごに入れて、椅子の下に置いてください」  スタッフさんに言われて荷物を入れつつ、「なんかほんとに凄そうですけど、濡れちゃっても平気ですか?」と二人に確認してしまう。 「じいちゃんは風邪ひいたら困るからちゃんとガードしてね」  雅彦さんに言いながら、「オレは平気だけど」と笑う瑛士さん。 「そんなヤワじゃない」  雅彦さんは苦笑しながら答えて、席に座った。 「始まったら帽子もかぶってくださいね」  なんて念を押してくるスタッフさんに、どれだけすごいんだろうと、ちょっと不安になる。オレが濡れるのは、むしろ楽しそうだし、全然良いけど、なんかこの二人は――――……。  ああ、なんか、水もしたたる、な二人になりそう。  大注目されちゃいそうだなあ……なんて思って、ちょっと口元が綻んでしまう。 「まあでもあれだよね。この席の前だけ、床がすごい濡れてるのは、まあそういうことだよね」  レインコートは、すっぽりかぶるようなポンチョ型、しかもかなりでかいので下まであるし、まあ、そこまでは濡れないのかなあとも思うけど。 「靴は濡れないようにした方がいいかもね」  なんて瑛士さんは笑ってる。 「あの、ほんとにいいんですか?」  ついつい最終確認してしまったオレに、「濡れるなら一緒に濡れようよ」と笑う瑛士さんと、クスクス笑って頷く雅彦さん。  なんかイルカショー、違う意味でもドキドキしてきたな。    そんな風に思うのだけれど。  オレのこんなのに、付き合ってくれる二人のことが――――……なんだか、最近会ったばかりの人たちとは思えないくらい、なんだか、すごく、好きで。  人を好きって思うのって。  ……αだとか。関わる時間とか。家柄とか身分、みたいなのとか。   そんなのは、全然関係ないんだなあって。  オレが生きてきた中で、初めて、そんなこと、しみじみ思っているような気がする。  

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