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95.ロマンチック②

「前少し話したけどさ」  穏やかな、優しい声を聞きながら、はい、と頷く。 「こういうとこでしたい? ファーストキス」 「――……あ、オレがですか?」  急に入ってきた、ファーストキスという単語に、数秒ぼけっとしてしまい、気を取り直して瑛士さんに視線をむける。オレが呆けてたからか、瑛士さんは苦笑を浮かべた。   「ほら。素敵なとこで、してほしいなーて、話したでしょ」 「瑛士さん、言ってましたね」 「凛太は、そういうの、ほんとに少しも思わない?」  そう聞かれて、んー……と考えながら、また視線を夕日に戻す。 「オレ、本当に、そういうのあんまり考えなくて――ていうか、それより、瑛士さんはこういうとこ、本当に、似合いますね」 「……そう?」 「こういうとこって言うか、素敵なとこ、どこに居ても似合うと思いますけど」  ふふ、と笑いながら言うと、瑛士さんは「そんなことはないと思うけど」と苦笑した。 「まあ、こういうところでファーストキス、とかすごくロマンチックなんだろうとは思いますけど……」 「……凛太には、そういうのはしないで生きてくかも、て言われたけど」 「言いましたね」  そうだ。そんなこと言ったなぁ。瑛士さんの困ったみたいな顔に、苦笑してしまう。でも、今までそういうことしたいと思ったことも無いってなると、やっぱりオレには関係ない話な気がする。  だって、ここから大学の間は勉強忙しいし、もし医者になれても、絶対死ぬほど忙しいし。働くところによっては時間なんかもうまったく余裕のない日々になる中で、恋愛しようなんて、オレ、思わないだろうし。そんな中でも、恋する人は、そこに癒しを求めるんだろうけど、オレは、絶対違うと思う……。  多分、瑛士さんにとっては、恋するって当たり前なんだろうな。モテただろうし。学生時代、どのクラスにもモテる人って何人かは居た気がするけど……きっとこの人は、ダントツ、だったんだろうなと、詳しく聞かなくても分かるし。  そんな人からすると、キスすらしたこと無くて、それどころか、そういうの、しないで生きてくとか言っちゃうオレのことは、もしかして、とっても心配な存在なのかもなぁ。 「――恋って、楽しいですか?」  ちら、と瑛士さんを見ながらそう言うと、瑛士さんは、少しの間、考え深げに黙ってオレを見つめた。 「うん……まあ。楽しいだけじゃないこともあるけど。でも、楽しいこともたくさんあるし。恋愛でしか持たない感情とかもあるし」 「どんなのですか?」 「んー……ドキドキしたり。可愛いなーとか……大切に思ったりとか……」 「……それは確かに、友達には思わないかもですね」  なるほど、ドキドキか。  ――ん? ドキドキ、とか。可愛い、とか??  ……あれ、それって。最近オレ……? 「だからさ。やっぱり、オレは、凛太に、ちゃんと誰かと恋して幸せに――」  頭の中で、ん? と固まってたオレは、瑛士さんの言葉が途中で止まったのに気付いて、少し遅れて瑛士さんを見つめた。  瑛士さんは、んー、と眉を寄せて、口元に軽く握った手をあてて、何かを考えているっぽい様子。 「瑛士さん?」 「……あ、ごめん。なんでもない」 「……? そうですか?」  なんでもないって感じじゃなかったけど……でも、今は自分の中のことが気になる。瑛士さんから目を逸らして、ますます暮れていく、金色みたいに見える夕日を、見つめる。  ドキドキしたり可愛いとか思ったり。瑛士さんには、そうなっちゃうけど。  でもなぁ。すっごい心臓とか、体の奥が痛くなったりもするしな。ちょっと違う気もする。  それに、可愛いって、そういうことじゃないか。ていうか、そもそもオレが瑛士さんを可愛い、とか。おかしいし。  それとこれとは、別問題か。  ……恋のそれと、瑛士さんへのそれは、どこで区別したらいいんだろ?? 違いがよく分かんないや。  しばらくの間、瑛士さんもオレも黙ったまま、  ただただ、綺麗な夕焼けを目に映す。 ◇ ◇ ◇ ◇ 次のページをとりあえず目指してここまで書いてきました(´∀`*)ウフフ 楽しんで頂けるといいなぁ…✨ by悠里 もしよろしかったら、感想を送るのところから、♡のスキを送って頂けたら嬉しいです♡♡

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