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116.そういえば接触禁止…
なんかそれにしても……キスも、ああいうことも。瑛士さんが初めてで、瑛士さんとのこと、ずーっと覚えてて忘れられないでいたとしたら、どうなんだろう。忘れた方がいいかな。
……あ。でもあれだな。
結局、最後まではしてないから……触れただけともいえるような。うーん……オレには、考えるのに高度過ぎて、よく分かんないや……。
バスルームを出ると、瑛士さんが脱衣所に用意してくれていた服に着替えて、髪をざっと乾かした。リビングに入ると、瑛士さんがわざわざドアのところまで、迎えに来てくれた。
「おかえり、凛太。あれ、髪、まだちょっと濡れてるね」
言いながら、ふわふわとした優しい仕草で髪に触れて、「ああ、でもやわらかいね」と微笑む瑛士さん。
……んん? なんか。甘々すぎなような。いままでも優しかったけど、なんか、これはオレでも、分かるかも……。なんか、ものすごく大事にしてくれているみたいな気が、する。
肩を抱かれて、椅子までつきそってくれる。
オレが座り終えるまで隣にいてくれて、よしよし、と撫でてくれる。なんだかよく分からない気持ちに、目をパチパチさせているオレから少し離れて行って、キッチンのカウンターの上から、お皿を運んでくる。
目の前に置かれたのは、でっかいオムライス。
「好きって言ってたから作ってみた」
「すっごくおいしそうです」
と、喜んではみたけど、とにかく何やらものすごくでっかい特盛って感じで、ちょっと笑ってしまった。
「どうしてこんなに大きいんですか?」
「凛太、久しぶりのご飯だからさ。食べれるだけ食べてね」
「久しぶり……?」
時計を見ると、二時。
……あれ? 二時? そういえば、朝じゃないな、この日の高い感じの明るさは。十四時ってことか。
昨日水族館行って、お店に寄って帰ったのが夜で……?
寝室はすっかり締め切ったままだったから、時間、全然分かってなかった。
「あれ、オレ、何時ごろから、寝てました?」
「明け方くらいかな?」
……結構な、衝撃。
え。もしかして、夜の間、ずっと、あれにつきあってくれてたとか……? オレ、全部はちゃんと覚えてないのかな。それともああいうことしてる時間って、あっという間とか……?? わかんないな、どうしよう。
「瑛士さん、あの……」
「うん?」
……き、聞けない。
どれくらいの時間、ああいうことしてたのか、なんて。
「いや。あの……」
と、その時。突然チャイムが鳴り響いた。
「このタイミングかぁ――ごめんね、少し待ってて」
瑛士さんはインターホンのカメラを覗き込むと「入ってきて」とボタンを操作した。
「凛太、京也さんと拓真なんだけど。入れても大丈夫? 体調が微妙なら、オレの部屋に連れてくけど」
「あ、今は体調、普通なので……大丈夫です」
「うん。匂いもしないし。……凛太に絡む話もあるからさ」
はい、と頷くと、瑛士さんが先に歩いていく。オレも後を追って、玄関に向かう途中。――――あれ。今、瑛士さん、匂いって言った?
匂い……って。
瑛士さん、と聞こうとした時、瑛士さんが玄関を開けて出て行ってしまった。すぐに二人を連れて、戻ってくる。
「こんにちは」
そう言いながら入ってきた二人は、日曜だけど仕事の日みたい。普通にスーツを着ている。弁護士さんと秘書さんに、日曜とかは関係ないのかなぁ、なんて思いながら挨拶を返した。
「悪い、今、凛太とお昼食べようとしててさ。コーヒー淹れるから、食べながらでいい?」
そう言う瑛士さんに、二人は頷いてる。皆で一緒にリビングに戻って、オレがコーヒーを淹れようかなとキッチンの方に行こうとしたら、瑛士さんに止められた。
「今日はオレがするからいいよ。座って、食べてて」
そう言って、オレをテーブルに座らせると、キッチンの方に戻っていった。オレの隣に座った楠さんが、オレのオムライスを見て、ちょっと笑う。
「凛太くん、結構食べるんだね」
「確かに。ものすごい大きくないか?」
有村さんまでクスクス笑ってる。
……大きい理由は、ちょっと説明できない。
ていうか、オレ、こんなに食べられないけど。
なんだか言えずに、曖昧に微笑んでいると。
向かいに腰かけた有村さんが、オレをじっと見つめた。
「随分遅い昼だね」
その言葉に、何か含まれてる気がして、不用意に答えられず。
「寝る時間が遅かったから」
瑛士さんの答えも微妙で。
……昨日のあれは、有村さんに知られたら、とっても怒られちゃうやつでは!? と、突然気づいて、内心とっても焦る。
そういえば接触禁止にするかとか、言ってたんだっけ……!
わぁ。なんかすごく、まずいのでは……。
なんだか、鼻歌でも歌ってる感じの瑛士さんにちょっと焦りながら。
オレは、ただひたすら、オムライスを食べることにした。
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