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115.忘れないかも

 ふ、と、目が覚めた。  オレは、毛布に包まれてて、ぐっすり眠っていたみたい。  随分、ヒートの熱、楽になってる気がする。  ぼんやり思い起こしてみて、数々の記憶に、顔が一気に熱くなった。  ……っオレってば。  なんだかもうめちゃくちゃ、乱れて、恥ずかしいこと言って、甘えて、しまった。 「…………っっ」  枕に埋まって、それを抱き締めながらオレは、ふ、と息をついた。  瑛士さんて。  ……いつも爽やかで、落ち着いてて、でもなんだか楽しそうに、いつも優しく笑って、とにかく、大人な感じだと、思ってた。  今も、思ってる、けど……。 「……」  瑛士さんの、余裕のない顔。なんか、すごく……。  すごくなんだろう。すごく。  ……やらしい……??  考えた瞬間、ぼぼぼぼ、と顔に火が付いたみたいに熱くなった。  ううううう。しぬ……。顔って、こんなに熱くなるのか。  なんかもう……瑛士さんの顔、まともに見られるかな……。  思ったその時。小さいノックとともに、ドアが開く音。びく、と体が震えたけど、そのまま、ぴたっと固まったまま動けない。  少しして、ぎし、とベッドが軋んだ。瑛士さんが腰かけたのだと思う。  ふわ、と後頭部に触れる、優しい感触。 「凛太……?」  静かに呼ばれて――ふ、と顔を動かして、瑛士さんを振り返る。  顔の熱、引いたかな……。ドキドキしながら見あげると、服の前ははだけたままの、綺麗な上半身がまず目に入って――それから、優しく微笑んでくれてる瑛士さんが見えた。 「気分はどう?」 「……今、は平気です……」 「良かった。じゃあご飯、食べよ?」 「……はい」  頷いて、のそのそと起き上がる。  裸の肩に、バスローブが掛けられた。 「パジャマとシーツは洗うから。シャワー浴びておいで?」 「……はい」  思ったよりずっと、瑛士さんは普通で……というか、完全にいつも通りの瑛士さんだ。  そっか。……慣れてる人は、こんな感じなのか。  オレが気にしすぎなのか。  そうだよな。それに、あれは、ヒートを助けてくれただけで。人助けみたいなもの、だもんね。  掛けてくれたバスローブの前をしめて、のそのそと、ベッドの端に近づく。脚を降ろして、立ち上がると――なんだか力が入らなくて、よろけた。 「っと……」  とっさに手を出してくれた瑛士さんの腕に、ぽす、と埋まる。 「あ。すみませ――」  とっさに見上げると、至近距離に瑛士さんの顔。自然と見つめ合ったその時。瑛士さんは、少し引いた。  あれ? と思った瞬間。瑛士さんが、苦笑して言った。 「……なんか、照れるね」  オレは、そんな瑛士さんを、瑛士さんの腕の中から、じっと見上げる。  ――そうなんだ。 照れる、んだ。瑛士さんも。  そっか。  ふふ、と微笑んでしまうと、瑛士さんも目を細める。 「……瑛士さん」 「ん?」 「……オレ、瑛士さんと会えて、良かったです」  え、と瑛士さんの口が動いて、びっくりした顔になってしまったけれど。 「会ってちょっとしか経ってないけど、すごく好きです」 「――――」 「ありがとうございます」  ふ、と笑って見せて、オレはよいしょ、と瑛士さんの腕の中から起き上がった。 「あ、だ、いじょうぶ?」 「はい。平気そうです。シャワー浴びてきますねっ」 「ぁ、うん……あ、っと。 あ、ご飯、作って待ってる、から」 「ありがとうございます、いってきまーす」  オレは、急いで出てこようと思って、バスルームへと急いだ。  バスタオルと下着を用意してから、シャワーのコックをひねった。  気づくと、体に、あちこち赤い跡が見える。  ……これはもしかして。  キスマーク……というものだろうか。  また顔が熱くて、そこから視線をそらして、顔にシャワーを浴びる。  オレの体に、こんなものがつく日がくるとは、思わなかったな。  ……相手が、あんなに素敵な人だなんて、正直なところ、ほんと不思議。  というか、オレがあんなことするなんて思わなかったもんな。キスだって、しないと思ってた。  瑛士さんは大人で、ああいうことも慣れてて。オレとしたことなんて、数ある中の一回で……しかもあれは、ほぼ人助けみたいなくくりなのだろうし。多分、忘れちゃうのかなーと思うけど。  なんかオレは、一生忘れないかも。  良い想い出。

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