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129.失礼って。

 大学のゼミ室。 「あれ。もう来たのか」 「あ、竜。おはよ」 「大丈夫なのか? ……って大丈夫そうか、一応」  近づいてきても、フェロモンを感じなかったみたいで、頷いている竜に、うん、と微笑む。 「今日明日くらいまで休むのかと思ってた」 「うん。いつもならそうなんだけど」  隣に座った竜が、オレをじっと見つめて、首を傾げる。 「良い薬でも見つかった……と思ったけど、お前、薬は飲みたくないんだもんな」 「あ。うん。……今回は、少し飲んだんだけど」 「ふうん?」  濁した言い方だと竜の質問タイムが永遠に続きそうなので、オレはもう思い切って言うことにした。  瑛士さんとの間にあったことは、手短に簡潔に。言われたことも、要点だけは言う感じに。  とにかくそういうのがあって、なんか落ち着くのが早かったみたい、と伝えた、  途中から、机に肘をついて顎を乗せ、ただ頷きながらオレを見ていた竜は、オレが話し終えると、ふうん、と頷いて体を起こした。 「マジで、プロポーズされたようなもんか」 「――プロポーズ……? ん―……まだ全然、分かんないけど。この先どうなるかで……」 「瑛士さんの方は、プロポーズみたいなもんだろ」 「……でもオレ、三年間は、頑張ること多いし、瑛士さんもだし。その間に色々変わるならそれでって、言ったから」 「その話もまあ、分かったけど」  竜は小さく何度か頷いて、オレをまっすぐ見つめた。 「オレ、あの人、結構見なおしたかも」 「……そう?」 「お前をヒートに乗じて抱いて、自分のモノにするなんて、簡単だろうと思うんだよ。あんだけ強いアルファなんだから」  そういえば、そんなことは言ってたなと。それは竜には言ってない。  そこらへんのことで竜に言ったのは、ヒートを助けてもらって。でも最後までは、してないんだけどってことだけ。なのに。核心をついてくるなぁと思いながら聞いていると。 「それができるなら、別に凛太のことは愛人みたいに囲って、もっと身分とか外的にいい、どんな人とでも結婚すること、できると思う」 「――おお。そう、だね」  うんうん、と頷くと、「頷くなよ」と竜が苦笑い。 「でも、お前の話だと、ヒートを収める手伝いはいろいろしたけど、自分は、我慢したんだろ」 「……っ」  手伝いいろいろ……我慢……。  顔が一気に熱くなる。返事は待たずに、竜が笑う。 「それ、なかなかできねぇと思うし。凛太を恋愛とか結婚の対象として、ちゃんと見てるけど、でも、凛太が努力してることとか、未来の夢とかも尊重して、そのための三年間、なんだろ」 「――――」  そんな風にはっきりと、短い言葉にして言われると。  瑛士さんがオレに言ってくれた、ふわふわしてた全部が、その言葉でちゃんと集約されたような気がした。  もちろん、その意味は、分かってはいた。だから嬉しかったし、瑛士さんを信じようって思ったし。だけど、なんか改めて、竜の言葉で聞いたら。   なんだか、じーんと胸がいっぱい。  ふと気付くと、じっと竜に見つめられていた。 「……え、何?」 「お前の何をそんなに気に入ったんだろうな」 「……あ、うん。分かる」 「は?」 「分かる。何でだろうね? そうなんだよねぇ、ほんと」  そこが全然分かんないから、いつか瑛士さん、「はっオレは何言ってたんだ?」てことになるんじゃないかって思うんだよね、うん。 「だって瑛士さんの周りなんて、素敵な人であふれてると思うんだよね。やっぱり不思議だよね。オレみたいなのって、逆に珍しいからかなぁ……?」  そうだよねぇ、と頷きながら言ってると、竜は、肘をついたまま、何秒か目をつむってしまった。オレは首を傾げて、その目が開くのを待っていたのだけれど。  開いた時には、呆れたように細目になってて。 「お前さ、それ、謙遜?」 「え?」 「本気で言ってるなら――失礼かもな」 「失礼? ……誰に??」 「瑛士さんに」 「え」  ちょっと考えたけど、言葉の意味が分からず、更に首を傾げると。 「瑛士さんが、お前がいいって決めて言ってるのに、勝手に、珍しいから、とかさ――そんな風に見えた? 珍しくて面白いから言ってる、みたいな」 「……みえ、ない……かも?」 「かもかよ」  竜は、ちらっとオレを見て、クッと笑った。 「――まあ、あんな大人な人に言われて信じられない気持ちは分かるけどな。オレは、なんかそうなるような気がしてたから。やっぱりなって感じ」 「何がやっぱり?」 「まーこういうのは、はたから見てた方が分かんのかもな。お前は、とにかく契約だって思ってたんだろうし」 「だって契約だったから……」  そう言って、竜を見つめ返すと「だろうけど、でも今は」と、少しだけ声のトーンを落とした。 「契約とか関係なく、お前を選んだんだろ?」 「――」 「だから、珍しいとか、そんな言い方で片付けたら、失礼じゃねえの?」 「……うん。そう。かも」  うん、と小さく頷く。  ――――そっか。  ……珍しいからとか。不思議、とか。  そんな風な言葉をくっつけてたのは。  自分の、不安をごまかすためだったのかも。  信じちゃった時に、瑛士さんが離れたら怖いとか。  そっか。 「オレって……思ってたより、臆病なのかも」  そう言うと、竜は、ふ、と笑った。 「まあ、そこらへん認めるとこから入れば」 「……うん。ありがと。竜」  竜はちょっと笑って肩を竦めてる。  (2025/11/6) 竜 書くの好きなんです…(* ̄ω ̄*)ウフ

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