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山茶花の幻影 1頁目

今は昔、竹取の(おきな)という者がかぐや姫を見つけた話は有名である。 竹から生まれ、あっという間に成長し……彼女の美しさに関する噂は瞬く間に広まった。 そして彼女へ5人の公達が求婚し、難題を与えられることとなる。 仏の御石(みいし)の鉢。 蓬莱(ほうらい)の玉の枝。 火鼠(ひねずみ)(かわごろも)。 龍の首の(たま)。 燕の産んだ子安貝。 手に入れた者と結婚すると彼女は言うが、どれもこの世に存在しているのかもわからない珍物ばかり。結婚を遠ざけるため、かぐや姫がわざと難題を出したのではないかと疑う者も少なくなかったが……。 実は彼女に意地悪のつもりはなかったのだ。何故なら、彼女の生まれ故郷であるムンという惑星(私たちが月と呼ぶ)では当たり前の求婚の儀式だから。 ムン人には不思議な力が備わっている。地球人の読者には魔力と言った方が想像しやすいだろう。ムンではこの魔力をダルと呼ぶ。ムンは5つの国で構成され、かぐや姫が生まれ育ったアルテミスという国では、特に男性より女性のダルが強い。そのため女性は尊い存在とされ、国の権力も握っていた。さらにアルテミスの男性は求婚の際に特別な贈り物をしないといけない。しかも命懸けで手に入れた珍物ほど女性に喜ばれるのだ。 かぐや姫にとっては「私に求婚するなら、このくらいの珍物は持って来れるでしょう?」くらいの気持ちだったのかもしれない。

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