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第9話 カミュの思惑(カミュ視点)

全ての後片付けを終えたカミュは、すやすやと安らかに眠る元主君の寝顔を見下ろす。 かつてのラルフは、傍若無人で人格が破綻した、王家が何としても世間から隠してしまいたい存在だった。 本人も欲に忠実で、結婚や恋愛なんて全く興味がなく、発散できるなら男だろうが女だろうがどうでもいい様子だった。 それなら安心だと、カミュは高を括っていた。 が、いつからだろうか。 徐々にラルフは人柄が変わっていったように見えた。 ちゃんと椅子に座って公務をしているだけで、過去の彼とは別人に見えた。 家族やカミュ、使用人への態度もかなり軟化していたし、なんなら気遣いさえ感じられた。 そのことで、目の色を変えたのは彼の両親(国王と王妃)だった。 我が家で責任を取ろうと考えていたけれど、今の彼ならば、どこか世継ぎのいない公爵家なんかに養子に出せばいいのではないかと考え始めた。 それが無理なら、嫁を娶るのもいいのでは?と。 カミュは冗談じゃない、と憤慨した。 何とかしてラルフを手中に収めなければ…。 それで思いついたのが、自分が騎士団長になり、爵位を得て、ラルフを娶ること。 勿論、すんなり付き人は辞められないだろうとは思っていたけれど、まさか騎士団に乗り込んでくるとは思わなかった。 ラルフはたまに以前の彼に戻ったように見えるときがある。 ずっとこうであっても構わないと思っていたけれど、傍若無人な彼では、俺が娶ることはできないだろう。 結婚という形に持っていくには、今のラルフでいてもわないとならない。 それでも、俺が付き人を辞めたことに憤慨して追いかけてくれたことは、純粋に嬉しかった。 今すぐ手絡めにして、監禁してやろうかとも思ったけれど、それでは目的が果たせない。 時期早々だと、なんとか己を押し殺した。 まさか、そうやって避けたことで別の男に欲情するとは思わなかったけれど。 欲に忠実すぎるのも考え物だと苦笑した。 全く、こっちの気も知らないで、ラルフはすやすやと眠っている。 才があるとはいえ、俺のような爵位という後ろ盾がない人間が騎士団長になるにはそれなりの努力が必要だ。 うつつを抜かして訓練を欠席するなんて言語道断だ。 俺は自分の部屋に戻ろうと、ラルフの部屋を出ようとする。 「あぇ?かみゅ?」 舌ったらずな声色でラルフが名前を呼んだ。 起こしてしまっただろうかと、ひやひやしたが「おやすみ」と呟いて寝息を立て始めたので、胸を撫でおろして自室に戻った。 ちなみに、新人の騎士に屋敷の見回りなんて仕事はない。 たまに癖で深夜にラルフの部屋の前に行くことがあった。 ドアに耳を当て、静かで、明かりが消えていることを確認しないと帰れない。 無意識か分からないが俺の名前を呼びながら、慰めている声が聞こえた時は、危うく扉を開けてしまいそうになった。 それからは、どんなに鍛錬で疲れていてもラルフの部屋の前で聞き耳をたてるのが日課になってしまった。 どうしてこうも、この人は俺の心を掴んで離さないのだろう。 まあ、カミュもラルフを掴んで話す気はないのだし、じっくりと外堀を埋めて行こうと画策するのだった。 ーーーー本編 了

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