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第1章 第1話(1)

 外出先から戻った莉音は、すっかり顔馴染みになっているマンションのコンシェルジュに挨拶をして、エントランスホールにあるメールボックスに向かった。その手には、先程作ったばかりの料理を詰めた紙袋が()げられている。今日は早瀬家で、ヴィンセントの妹であるリサと、日本とアメリカ、それぞれの国の家庭料理を教え合ってきたところだった。  朝のうちにヴィンセントにもその予定を伝えてある。妹の我儘に付き合わせているのではと気にしているようだったが、月に数度のリサとの料理教室は、莉音にとっても楽しみなイベントのひとつだった。  明るくて快活なリサと過ごす時間は、いつも笑いが絶えない。幼いころや学生時代のヴィンセントの話を、家族の視点からいろいろ聞けるのも楽しかった。なにより、彼にとっての母の味を知ることができるのは嬉しい。  莉音は手にしている紙袋を見下ろして、ふふふと口許をゆるめた。今日は、ミートローフとマカロニチーズを教えてもらってきた。  喜んでもらえるかなとウキウキしながらメールボックスのパネルに暗証番号を入力して、投函されている郵便物を取り出す。その場でざっと届いている書簡を確認している途中でその手が止まった。一葉のハガキを凝視する。 「え……」  莉音は小さく呟いた。

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